・・・ 私達は実生活の上に於て、その場合、場合に面接して、この世の中というところが、どんなものであるかを切実に知り得たのです。 もう一つ、貧困の時代に、苦しめられたものは、病気の場合であります。手許に、いくらかの金がなくては、医者を迎える・・・ 小川未明 「貧乏線に終始して」
・・・それから一年ちかく、二三度会った太宰治のおもかげを忘じがたく、こくめいに頭へ影をおとしている面接の記憶を、いとおしみながら、何十回かの立読みをつづけて来た。一言半句、こころにきざまれているような気がしています。本屋から千葉の住所を諳記して来・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・私は、その者たちの一人とも面接の機会を得たことがない。私は、その者たちの自信の強さにあきれている。彼らの、その確信は、どこから出ているのだろう。所謂、彼らの神は何だろう。私は、やっとこの頃それを知った。 家庭である。 家庭のエゴイズ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ 医者が手当をしてくれると、私は面接所に行った。わざと、下駄を叩きへ打っけるんだ。共犯は喜ぶ。私も嬉しい。 ――しっかりやろうぜ。 ――痛快だね。 なんて言って眼と顔を見合せます。相手は眼より外のところは見えません。眼も一つ・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・その中に、何か一つの重大な問題に面接しなければならない事に成ったとする。勿論彼女は驚く、疑う、解決を得ようとするだろう、大切な事は、この時彼女が終始自分を失わず、行くべき方向を遠望して、自らの決定と自らの意志でそれを体験して行く丈の力が有る・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・ 勿論、考えようによっては、これ等のことは事実に面接しなければ話にも成らないことかも知れません。或る人は、不吉な空想を逞しゅうするという不快さえ感じるかもしれません。然し、今、静かに、厳しい内省を自分自身に加える時、私はこれ等のことごとを畏・・・ 宮本百合子 「偶感一語」
・・・わたしたちは、善意の途の上で悪党どもに面接するという経験をもった。その典型は権力の諸関係の大きさにひとしく大きい。権力の諸関係の本質と相通じて、怪物的である。そして、現代における大きい典型の再発見の妙味は、それが、ルネッサンスの世界、バルザ・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・ 独身、一 Y、三十二歳 ※は、第二次的クサリがなく、自由なればなる程、大きな疑問と面接する自己を感じて苦しむ。 八月一日 夜、黄金虫が障子にとまった。 朱と金の漆塗と、印殿草で出来た虫だ。翼・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・彼女は、幸福に優しく抱擁される代りに、恐ろしく冷やかに刺々しい不調和と面接し、永い永い道連れとならなければならなかったのである。 以前より、自分の正しいと信じるところに勇ましくなった彼女は、あなたはどう思いますという問に対して、正直に、・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫