・・・ 小町 (噛誰がそんなことを云ったのです? 使 (怯ず怯やっぱりさっき小野の小町が、…… 小町 まあ、何と云う図々しい人だ! 嘘つき! 九尾の狐! 男たらし! 騙り! 尼天狗! おひきずり! もうもうもう、今度顔を合せたが最後、きっ・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・大きな人間ばかりは騙り取っても盗み取っても罪にならないからなあ」「や、親父もちょっと片意地の弦がはずれちまえばあとはやっぱりいさくさなしさ。なんでもこんごろはおかしいほどおとよと話がもてるちこったハヽヽヽヽ」 佐介がハヽヽヽヽと笑う・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・其点がはっきりしてこそ、早苗が、只、敵方に騙り寄せられた城将の妻が古来幾度か繰返したような自裁を決行したのか、又は彼女が云うように、国や命を賭けた戦を、彼女の命で裁かれたのか、歴然と一方に事実として照し出されたのではあるまいかと思うのである・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・――だからね、ダーシェンカ、三百円は、私にとってただの金ではないんですよ、命の一部分なの、それを、ね、ダーシェンカ、そんな思いでためている金を、私より技量のある、丈夫なエーゴルに騙りとられて黙っていられるでしょうか、ね、ダーシェンカ」 ・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫