・・・この七五、また五七は単に和歌の形式の骨格となったのみならずいろいろな歌謡俗曲にまで浸潤して行ってありとあらゆる日本の詩の領分を征服し、そうしてすべての他の可能なるものを駆逐し、排除してしまっている。これは一つの大きな「事実」である。そうだと・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・そのようにして、第三次、第四次の付け句を作って行くうちには必ず少なくも自分では適当と思われるものの骨格だけは得られるのである。それでもどうしても思わしくない場合にはこれは断念放棄して、さらに第二の予選候補者を取り上げて同様な推敲に取りかかる・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・あんなに頑丈な骨骼を持った人とは思わなかった。あんなに無粋な肩幅のある人とは思わなかった。あんなに角張った顎の所有者とは思わなかった。君の風ふうぼうはどこからどこまで四角である。頭まで四角に感じられたから今考えるとおかしい。その当時「その面・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ ウィリアムは身の丈六尺一寸、痩せてはいるが満身の筋肉を骨格の上へたたき付けて出来上った様な男である。四年前の戦に甲も棄て、鎧も脱いで丸裸になって城壁の裏に仕掛けたる、カタパルトを彎いた事がある。戦が済んでからその有様を見ていた者がウィ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・いいや、そうじゃない、白堊紀の巨きな爬虫類の骨骼を博物館の方から頼まれてあるんですがいかがでございましょう、一つお探しを願われますまいかと、斯うじゃなかったかな。斯うだ、斯うだ、ちがいない。さあ、ところでここは白堊系の頁岩だ。もうここでおれ・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・卓の上には地球儀がおいてありましたしうしろのガラス戸棚には鶏の骨格やそれからいろいろのわなの標本、剥製の狼や、さまざまの鉄砲の上手に泥でこしらえた模型、猟師のかぶるみの帽子、鳥打帽から何から何まですべて狐の初等教育に必要なくらいのものはみん・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 携帯口糧のように整理された文化の遺産は、時にとって運ぶに便利であろうけれども、骨格逞しく精神たかく、半野生的東洋に光を注ぐ未来の担いてを養うにはそれだけで十分とは云い切れまいと思える。 三代目ということは、日本の川柳で極めてリアル・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・尨大な数の不幸な人々と、顔色のわるい、骨格のよわいその子供たちとが、自分たちの運命をきりひらくために勇奮心をふるい起そうともしないで、波止場の波に浮ぶ藁しべのようにくさりつつ生きている光景は、どんな眠たい精神の目も、さまさせずにおかないもの・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・の枠内で、新らしい骨格を養うことは、ほとんど絶対に不可能である。文章の上からだけいっても社会科学の用語が、小説のなかの生きた言葉になりつつある。生活の現実と実感がそこまでひろがって来ている。 新版のマルクス=エンゲルス選集は、現代作家の・・・ 宮本百合子 「生きている古典」
・・・プロレタリア芸術家たちは、マルクシズム・レーニズムの立場から制作を正統なリアリズムの骨格と肉づけとで組立てることに努力して来た。が、農業と工業との生産労働へ日夜接触して見ると、彼等は自身のリアリズムに多分の機械的マルクシズム、生産に対する知・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫