・・・何十年来シベリヤの空を睨んで悶々鬱勃した磊塊を小説に托して洩らそうとはしないで、家常茶飯的の平凡な人情の紛糾に人生の一臠を探して描き出そうとしている。二葉亭の作だけを読んで人間を知らないものは恐らく世間並の小説家以上には思わないだろうし、ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・われわれの心に鬱勃たる思想が籠もっておって、われわれが心のままをジョン・バンヤンがやったように綴ることができるならば、それが第一等の立派な文学であります。カーライルのいったとおり「何でもよいから深いところへ入れ、深いところにはことごとく音楽・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・というような鬱勃の雄心を愛して居られたのではないかと思われます。いつか鳩に就いての随筆を、地方の新聞に発表して、それに次兄の近影も掲載されて在りましたがその時、どうだ、この写真で見ると、おれも、ちょっとした文士だね、吉井勇に似ているね、と冗・・・ 太宰治 「兄たち」
・・・縁端にずらり並んだ数十の裸形は、その一人が低く歌い出すと、他が高らかに和して、鬱勃たる力を見せる革命歌が、大きな波動を描いて凍でついた朝の空気を裂きつつ、高く弾ねつつ、拡がって行った。 ……民衆の旗、赤旗は…… 一人の男は、跳び上る・・・ 徳永直 「眼」
・・・ 芸術院会員にはなれず、しかも事大的に鬱勃たる一団の壮年者によって「新日本文化の会」というのは結成されるのであろう。十七日に第一回会合を持たれる由であるから顔ぶれはまだ分らない。林房雄、中河与一氏などが音頭とりで、名称も懇話会よりは一層・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
出典:青空文庫