出典:青空文庫
・・・丸裸のアダムに飼いならされた太古の野猫のある場合の挙動の遠い遠い反響が今目前に現われているのではないかという幻想の起こることもあった。 猫が人間の喜びに相当するらしい感情の表現として、前足で足踏みをするのは、食肉獣の祖先がいい獲物を見つ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・歴山王、ナポレオンの功業を察し、ニウトン、ワット、アダム・スミスの学識を想像すれば、海外に豊太閤なきに非ず、物徂徠も誠に東海の一小先生のみ。わずかに地理歴史の初歩を読むも、その心事はすでに旧套を脱却して高尚ならざるを得ず。いわんや彼の西洋諸・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・西洋においても、先ずエデンの園に現われたる人はアダムにして、後にイーブなる女性を生じ、夫婦の道始めて行われたるものなり。さてこの独化独生の人が独り天地の間に居るときに当たりては、固より道徳の要あるべからず。あるいは謹んで天に事うるなどのこと・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ それから、ずうっと社会が進んでまいりましてから、聖書の書かれた時代、あの時代になりますと、アダムとイヴの話があります。 これによりますと、アダムとイヴの二人の人間が作られたことになっております。そして、この二人の人間は禁断のこのみ・・・ 宮本百合子 「幸福について」
・・・その一部として、アダム・ドミトリエフの『よし! 船をひけ』。別に、国内戦時代赤軍で働き有名な脚本「ラズローム」を書いたボリス・ラヴレーニェフの『斯うして防衛する』というバルチック艦隊の演習を記録した本が出版された。 槌・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ミーダ 体も心も赤裸か、楽園を追われたアダムとイブと云いたいが、俺と云う憑きものがあるだけ、あの当時より複雑だ。カラ ああ私も、久しぶりで堪能した。ちょいちょい小出しに楽しもうと蓄めさせた涙の壺、霊の櫃だけでも彼那になった。ヴィ・・・ 宮本百合子 「対話」
・・・ 叔父の寝台の傍で聞いた宗教的な種々の話は実に沢山であった。 アダム、イブの話。 ノアの箱舟。 クリストの子供の時の話。 Babel の塔。 其の他種々の話を、彼は我々が日常の出来事に対して云う通りな静かな事実を有り・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・この中にアダムとエヴァがいるが、お前はどこで見分けるかい?」 ゴーリキイを、散々卑猥な説明で悩してから爺は教えた。「つまりはお前も馬鹿な小僧さんだね。アダム、エヴァは生れた人間じゃなくて、造られた人だから、臍が無いじゃないか!」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・そこでは、チェルヌイシェフスキイの註解附のアダム・スミスの書物を研究するのであった。アダム・スミスの読解は、ゴーリキイをひきつけなかった。「よその小父さん」の幸福と安逸とのために自分のすべてを消耗しているものにとっては実に明らかな事実に・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・それらの英訳が各国の翻訳論文集や、ミル、アダム・スミスとともに立ててある。ここは本屋でもある。正面の勘定台に男が二人、一人は立ったまま何か読んでいる。黒い細いリボンを白シャツの胸にたらした女が大きな紙の上で計算している。勘定台の後横から狭い・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」