出典:青空文庫
・・・次には、とある店先のショーウィンドウの鎧戸が引き上げられる、その音のガーガーと鵞鳥のガーガーが交錯する。そうしてこの窓にヒロインの絵姿のビラがはってあるのである。これを彼の「モロッコ」の冒頭に出て来るアラビア人と驢馬のシーンに比べるとおもし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・建ちかかっている大ビルディングの鉄骨構造をねらったピントの中へ板橋あたりから来たかと思う駄馬が顔を出したり、小さな教会堂の門前へ隣のカフェの開業祝いの花輪飾りが押し立ててあったり、また日本一モダーンなショーウィンドウの前にめざしの頭が二つ三・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・東京でワッショイ/\/\というところを、ここではワイショー/\と云うのも珍しかった。この方がのんびりして野趣がある。 市役所の庭に市民が群集している。その包囲の真中から何かしら合唱の声が聞こえる。かつて聞いた事のない唱歌のような読経のよ・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ ついこの頃の雑誌で見ると、英国の気象局長ショー氏は軍事上に必要な顧問となるために同局の行政的事務を免除され、もっぱら戦争の方の問題に骨を折る事になったとある。これはむしろあまり遅きに過ぎると思われるが、いったい英国の流儀としては怪しむ・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・踊子の大勢出るレヴューをこの土地ではショーとかヴァライエチーとか呼んでいる。西洋の名画にちなんだ姿態を取らせて、モデルの裸体を見せるのはジャズ舞踊の間にはさんでやるのである。見てしまえば別に何処が面白かったと言えないくらいなもので、洗湯へ行・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・軒をならべた露店に面して、よくみがかれた大きいショーウィンドをきらめかせているデパートはすべてが外国風な装飾で、外国人専用のデパートの入口には外国の若い兵士が番をしている。その入口を出て来る人の姿を見ていると、あながち外国人ばかりでもなくて・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・二階の窓からは雨にぬれた銀杏樹の並木、いろんな傘をさした人の往来、前の電気屋のショーウィンドに円いオレンジ色のシェードが飾ってあるの等、活々と一種の物珍らしい美しさで暗い、臭いところから出て来た目に映った。 やがて、母親が室の外をのぞく・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・けれども、社会のはげしく移り変る世相そのものをただ追っかけて、漁って、ちょっと珍しい局面を描き出したとして、それはたしかにそういうこともあり、そうでもあるかもしれないけれど、往来に向ってとりつけられたショーウィンドが、何でもただ映すのとどれ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・ オックスフォード広場で、勤帰りを待伏せる春婦が、ショー・ウィンドウのガラス面に自分の顔を、内部にこの商品を眺めつつぶらつき、やがて三十分もするとロンドン市中、あらゆる地下電車ステーションの昇降機とエスカレータアは黒い人間の粒々を密・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」