出典:青空文庫
ロジェ・マルタン・デュガールの長篇小説「チボー家の人々」は太平洋戦争がはじまる前に、その第七巻までが訳された。山内義雄氏の翻訳で、どっさりの人に愛読されていたものであったが、ドイツのナチズムとイタリーのファシズムの真似一点・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・ 今日私たちのところには「チボー家の人々」が訳されており、その主人公のジャックの一時期の境遇を描いた「灰色の手帖」「少年園」は一般につよい感銘を与えている。マリイ・オゥドゥウの「孤児マリイ」は何とまざまざと女の子のための孤児院の生活感情・・・ 宮本百合子 「ジャンの物語」
・・・「チボー家の人々」の第三巻「美しき季節」を読んで、いろいろと今ふれて来たことにもつれて考えられていた或る日、中野重治が来て、その話が出、彼は「あの第三巻をよむと、マルタン・デュ・ガールという作家は果してほんとに偉い作家なんだろうか、どう・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
「チボー家の人々」第一巻「灰色のノート」と第二巻「少年園」とを、ひきいれられる興味と文学における真面目な労作の快よさをもって読んだ。この最初の二冊を読んだ人々は一層熱心に第三巻を待っているのであろうし更に第十巻全部が滞りなく完訳され・・・ 宮本百合子 「次が待たれるおくりもの」
ロジェ・マルタン・デュ・ガールの「チボー家の人々」十一巻は、いまこそ、日本の読者のために、その翻訳を完結されなければならない。第七巻まで翻訳出版されたのが一九四〇年八月。兇悪な戦争が、訳者山内義雄氏と出版社白水社の仕事を阻・・・ 宮本百合子 「脈々として」
・・・けれども、それにしても十分ということは出来ず例えば「チボー家の人々」は、主人公である青年が、大戦を経た若い時代の精神生活の推移として、世界観を変革されてゆく部分になると、翻訳は頓挫してしまった。世界の歴史の進展によって、生きている人間の活溌・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・ マルタン・デュガールは、長篇「チボー家の人々」を何故第一巻の「灰色のノート」をもってはじめずにはいられなかったのだろう。そこで無視され、卑俗な大人の通念で誤解されたジャックの能動的な精神の発芽が、やがて封じこめられた「少年園」第二巻で・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」