出典:青空文庫
・・・ドストエフスキー、セルバンテス、ホーマー、ストリンドベルヒ、ゴットフリード・ケラー*、こんな名前が好きな方の側に、ゾラやイブセンなどが好かない方の側に挙げられている。この名簿も色々の意味で吾々には面白く感じられる。* ゴットフリード・ケ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・試験の時に、かつて先生の引用したホーマーの詩句の数節を暗唱していたのをそっくり答案に書いて、大いに得意になったこともあった。 教場へはいると、まずチョッキのかくしから、鎖も何もつかないニッケル側の時計を出してそっと机の片すみへのせてから・・・ 寺田寅彦 「夏目漱石先生の追憶」
・・・饒舌よりはむしろ沈黙によって現わされうるものを十七字の幻術によってきわめていきいきと表現しようというのが俳諧の使命である。ホーマーやダンテの多弁では到底描くことのできない真実を、つば元まできり込んで、西瓜を切るごとく、大木を倒すごとき意気込・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・そうして「ホーマーのおかげで詩は横道に迷い込んでしまった。ホーマー以前のオルフィズムこそ正しい詩の道だ」と言ったそうである。 この所説の当否は別問題として、この人の言う意味での正しい詩の典型となるべきものが日本の和歌や俳句であろう。雄弁・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・実際今の日本の文学者の前でホーマーとかミルトンとかいう名前を持ち出すのはだれでも気がひける事だろうと思う。文学に限らず科学の方面でも今どきベーコンやニュートンの書いたものを読むのは気がさすような周囲の状態である。古いものを新しい目で見るのや・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・ 聖ダンテの「神曲」は、何故今日まで不朽に生命を受けて居るか。 永遠に変らざる「真」がその一言の中にも輝いて居るからでは無いか。 ホーマーもミルトンも、只「真」の一字がある故に尊いではないか。 孔子、基督、その他あらゆる人々・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・この枢密顧問官は、役人くさくない聰明な人がらで、ホーマーやシェクスピアを愛読していた。当時の狭い社会で枢密顧問官といえば、貴族的な上流人と考えられていた。小さなワイマールの市で枢密顧問官であったゲーテの祖父が、どんなにか業々しくその地位を考・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ そういう意味でコンムーナ員たちが素晴らしい作品だと決定した各国のいろんな作品の中に、ホーマーの「オデッセイ」が入っているのは非常に面白い。ゴーリキーの小説をよんでもわかるようにロシアの農民は昔から、詩の形で書かれた長い物語を口づたえに・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ ホーマーの詩の百千の句を知っていることのよろこびより、自身の世代の真の歌を、何かの形でうたいうる名のない一人の作家であることのよろこびは、何と謙遜でしかも激しいであろうか。作家は、文化として一般の教養の低いことを怪しまない時代にめぐり・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
・・・世界文学の最も古典のものとしていつも語られるギリシアの詩人ホーマーの「イリアード」のなかに、この描かれるものとしての第一の女性が現われている。「イリアード」の中のヘレネは非常に美しく、美しい女性の典型として描かれている。ヘレネは美しさにおい・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」