出典:青空文庫
暑い時に、ふいと思い出すのは猿簑の中にある「夏の月」である。 市中は物のにほひや夏の月 凡兆 いい句である。感覚の表現が正確である。私は漁師まちを思い出す。人によっては、神田神保町あたりを思い浮べたり、あ・・・ 太宰治 「天狗」
・・・ゆがみて蓋のあわぬ半櫃 凡兆草庵にしばらくいては打ちやぶり 芭蕉 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・で芭蕉去来凡兆の三重奏を取ってみる。これでも芭蕉のは活殺自由のヴァイオリンの感じがあり、凡兆は中音域を往来するセロ、去来にはどこか理知的常識的なピアノの趣がなくはない。 しかしこういう見立てのようなことはもちろん見る人によっていろいろち・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・芭蕉また凡兆に対して「俳諧もさすがに和歌の一体なり、一句にしおりあるように作すべし」といえるもこの間の消息を解すべきものあり。凡兆の句複雑というほどにはあらねど、また洒堂らと一般、句々材料充実して、かの虚字をもって斡旋する芭蕉流とはいたく異・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」