出典:青空文庫
・・・マッチの貼紙や切手を集めあるいはボタンを集め、達磨を集め、甚だしきは蜜柑の皮を蒐集するがごとき、これらは必ずしも時代の新旧とは関係はないが、珍しいものを集めて自ら楽しみ人に誇るという点はやはり骨董趣味と共通である。 科学者の修得し研究す・・・ 寺田寅彦 「科学上の骨董趣味と温故知新」
・・・ 彼は、自分から動く火吹き達磨のように、のたうちまわった挙句、船首の三角形をした、倉庫へ降りる格子床の上へ行きついた。そして静かになった。 暗くて、暑くて、不潔な、水夫室は、彼が「静か」になったにも拘らず、何かが、眼に見えない何かが・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・松の木は善い木であろうというと、それは俗な木だという。達磨は雅であろうというと、達磨は俗だという。日本の甲冑は美術的であろうというと、西洋の甲冑の方が美術的だという、一々衝突するから、同じ人間の感情がそれほど違うものかと、余り不思議に思って・・・ 正岡子規 「画」
・・・も「達磨汁粉」も家は提灯に隠れて居る。瓦斯燈もあって、電気燈もあって、鉄道馬車の灯は赤と緑とがあって、提灯は両側に千も万もあって、その上から月が照って居るという景色だ。実に奇麗で実に愉快だ。自分はこの時五つか六つの子供に返りたいような心持が・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・仲店を幾度も幾度も行ったり来たりして三四枚スケッチと玩具の達磨と鳩ぽっぽとをふり分に袂に入れて向島の百花園に行って見る。割合にスケッチも出来なくってイラついて来たんで電車にのって山下まで行った。あのうすっくらいジメジメしたとこに帰るんだと思・・・ 宮本百合子 「芽生」