出典:青空文庫
・・・洗って貰って平気に草を食ってる、惣領が長い柄の柄杓で水を牛の背にかける、母親が縄たわしで頻りに小摺ってやる、白い手拭を間深かに冠って、おれのいったのも気がつかずにやってる、表手の庭の方には、白らげ麦や金時大角豆などが庭一面に拡げて隙間もなく・・・ 伊藤左千夫 「姪子」
・・・の氷金時を食べさせてもらって、高津の坂を登って行く途々、ついぞこれまで味えなかった女親というものの味の甘さにうっとりして、何度も何度も美しい浜子の横顔を見上げていました。 ところが、そんな優しい母親が、近所の大人たちに言わせると継母なの・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
こう云う船だった。 北海道から、横浜へ向って航行する時は、金華山の燈台は、どうしたって右舷に見なければならない。 第三金時丸――強そうな名前だ――は、三十分前に、金華山の燈台を右に見て通った。 海は中どころだっ・・・ 葉山嘉樹 「労働者の居ない船」
・・・受付で待っていると、びっくりするばかりの赭ら顔に髪の毛をもしゃとし、眼付が足柄山の金時のような感じを与える男の人が、坪内先生の手紙を片手に握って速足に出て来た。これが瀧田樗蔭氏であった。白絣に夏羽織の裾をゆすって二階へ上った。私が全く自然発・・・ 宮本百合子 「その頃」