出典:青空文庫
・・・ 二 なぜソロモンはシバの女王とたった一度しか会わなかったか? ソロモンは生涯にたった一度シバの女王に会っただけだった。それは何もシバの女王が遠い国にいたためではなかった。タルシシの船や、ヒラムの船は三年に一度金銀や象牙・・・ 芥川竜之介 「三つのなぜ」
・・・その友達というのは手相を見る男で、それも西洋流の手相を見る男で、僕の手相を見たとき、君の手にはソロモンの十字架がある。それは一生家を持てない手相だと言ったんです。僕は別に手相などを信じないんだが、そのときはそう言われたことでぎくっとしました・・・ 梶井基次郎 「ある崖上の感情」
・・・野の百合は如何にして育つかを思え、労せず、紡がざるなり、されど栄華を極めしソロモンだに、その服装この花の一つにも如かざりき。きょうありて明日、炉に投げ入れらるる野の草をも、神はかく装い給えば、まして汝らをや。汝ら、之よりも遥かに優るる者なら・・・ 太宰治 「鴎」
・・・こうして、じっと見ていると、ほんとうにソロモンの栄華以上だと、実感として、肉体感覚として、首肯される。ふと、去年の夏の山形を思い出す。山に行ったとき、崖の中腹に、あんまりたくさん、百合が咲き乱れていたので驚いて、夢中になってしまった。でも、・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・ソロモン王と賤民 私は生れたときに、一ばん出世していた。亡父は貴族院議員であった。父は牛乳で顔を洗っていた。遺児は、次第に落ちぶれた。文章を書いて金にする必要。 私はソロモン王の底知れぬ憂愁も、賤民の汚なさも、両方、知っ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ ソロモンの栄華も一輪の百合の花に及ばないという古い言葉が、今の自分には以前とは少しばかりちがった意味に聞き取られるのである。 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ ソロモンの栄華も一輪の百合の花に及ばないという古い言葉が、今の自分には以前とは少しばかりちがった意味に聞き取られるのである。 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 南洋のソロモン群島中のある島に存する竹製の縦笛にププホルと称するのがある。長さ五五・四デシメートルとあるのを換算するとまさに一丈八尺強、恐ろしく長いものである。ただ穴が三つしかないらしい。このププホルと『徒然草』のいわゆるボロボロとを・・・ 寺田寅彦 「日本楽器の名称」