出典:青空文庫
・・・ と納戸へ入って、戸棚から持出した風呂敷包が、その錦絵で、国貞の画が二百余枚、虫干の時、雛祭、秋の長夜のおりおりごとに、馴染の姉様三千で、下谷の伊達者、深川の婀娜者が沢山いる。 祖母さんは下に置いて、「一度見さっしゃるか。」と親・・・ 泉鏡花 「国貞えがく」
・・・またそれよりも、真珠の首飾見たようなものを、ちょっと、脇の下へずらして、乳首をかくした膚を、お望みの方は、文政壬辰新板、柳亭種彦作、歌川国貞画――奇妙頂礼地蔵の道行――を、ご一覧になるがいい。 通り一遍の客ではなく、梅水の馴染で、昔から・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 欲いのは――もしか出来たら――偐紫の源氏雛、姿も国貞の錦絵ぐらいな、花桐を第一に、藤の方、紫、黄昏、桂木、桂木は人も知った朧月夜の事である。 照りもせず、くもりも果てぬ春の夜の…… この辺は些と酔ってるでしょう。・・・ 泉鏡花 「雛がたり」
・・・清長型、国貞型、ガルボ型、ディートリヒ型、入江型、夏川型等いろいろさまざまな日本婦人に可能な容貌の類型の標本を見学するには、こうした一様なユニフォームを着けた、そうしてまだ粉飾や媚態によって自然を隠蔽しない生地の相貌の収集され展観されている・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・の襟足際立つ手拭の冠り方、襟付の小袖、肩から滑り落ちそうなお召の半纏、お召の前掛、しどけなく引掛に結んだ昼夜帯、凡て現代の道徳家をしては覚えず眉を顰めしめ、警察官をしては坐に嫌疑の眼を鋭くさせるような国貞振りの年増盛りが、まめまめしく台所に・・・ 永井荷風 「妾宅」