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・・・秋晴の好天気で、街にはもう御大典の装飾ができかかっていた。最後の希望は直入と蕃山の二本にかかった。 そこの大きな骨董屋へはいってまず直入を出したが、奥から出てきた若主人らしい男はちょっと展げて見たばかしで巻いてしまった。たいしたえらいも・・・
葛西善蔵
「贋物」
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・・・また平日一般の日本国民は京都市の晴雨に対しては冷淡なるも、御大典当時は必ずしも然らざるべし。 数学的の言葉を借りて云えば、各個人、市民、あるいは国民がある現象に対して利害を感ずる範囲は時間と空間とより組成されたる四元空間中において、ある・・・
寺田寅彦
「自然現象の予報」