・・・その笑い方苦笑にあらず、冷笑にあらず、微笑にあらず、カンラカラカラ笑にあらず、全くの作り笑なり、人から頼まれてする依托笑なり、この依托笑をするためにこの巡査はシックスペンスを得たか、ワン・シリングを得たか、遺憾ながらこれを考究する暇がなかっ・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・ ナチスから追われて国外に亡命したトーマス・マンの全家族、フォイヒトワンガー、ルドリヒ・レーン、エルンスト・トルラーなどは、それぞれ国外で反ファシズムと世界文化擁護のための活動をしていた。 けれども日本の一九三七年はメーデーを正式に・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・現代の 複雑さ、未来派や耽美派やソシアリストや皆、生命の ワン グリムプスを奉じて居ると思う。生命の本源、生存の真髄は決して、ナレッジで啓かれ、触れられると思わない。大なる直覚、赤児のような透視無二無私に 瞳を放つ処・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・太郎に私が上から「太郎ちゃん、ワンワンにおかし、はいって!」と云ったら、Sさんというスエ子の注射のために来ている看護婦が「おやりになってるもんだから味をしめて動かないんです」と笑っている。太郎は自分の手からビスケットをやってなめられて、アウ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・戦後四年めになって、日本の社会と文化とは、権力がのぞんでいる民主化抑圧の第四の時期を経験した。ワン・マン彼自身が国際茶坊主頭である。茶坊主政治は、護符をいただいては、それを一枚一枚とポツダム宣言の上に貼りつけ、憲法の本質を封じ、人権憲章はた・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・獄中にて西教に傾きたりといえば、彼コルシカ人の「ワンデツタ」に似たる我邦復讐の事、いま奈何におもうらん。されど其母殺したりという人は、安き心もあらぬなるべし。きょうは女郎花、桔梗など折来たりて、再び瓶にさしぬ。 二十五日、法科大学の学生・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・裾がまくれて白い小さな尻が、「ワン、ワン。」と吠えながら少しずつ下がっていった。「エヘエヘエヘエヘ。」 女の子は腹を波打たして笑い出した。二、三段ほど下りたときであった。突然、灸の尻は撃たれた鳥のように階段の下まで転った。「エヘ・・・ 横光利一 「赤い着物」
出典:青空文庫