ぞく‐あく【俗悪】例文一覧 26件

  1. ・・・ですから彼が三十分ばかり経って、会社の宴会とかへ出るために、暇を告げて帰った時には、私は思わず立ち上って、部屋の中の俗悪な空気を新たにしたい一心から、川に向った仏蘭西窓を一ぱいに大きく開きました。すると三浦は例の通り、薔薇の花束を持った勝美・・・<芥川竜之介「開化の良人」青空文庫>
  2. ・・・楕円形の中の肖像も愚鈍の相は帯びているにもせよ、ふだん思っていたほど俗悪ではない。裏も、――品の好い緑に茶を配した裏は表よりも一層見事である。これほど手垢さえつかずにいたらば、このまま額縁の中へ入れても――いや、手垢ばかりではない。何か大き・・・<芥川竜之介「十円札」青空文庫>
  3. ・・・ 二 書生の恥じるのを欣んだ同船の客の喝采は如何に俗悪を極めていたか! 三 益軒の知らぬ新時代の精神は年少の書生の放論の中にも如何に溌溂と鼓動していたか!   或弁護 或新時代の評論家は「蝟集する」と云う意味に「門前・・・<芥川竜之介「侏儒の言葉」青空文庫>
  4. ・・・思えばこの暇つぶしと云い生活のためと云う、世間の俗悪な解釈のために、我毛利先生はどんなにか苦しんだ事であろう。元よりそう云う苦しみの中にも、先生は絶えず悠然たる態度を示しながら、あの紫の襟飾とあの山高帽とに身を固めて、ドン・キホオテよりも勇・・・<芥川竜之介「毛利先生」青空文庫>
  5. ・・・そして、旧習慣、常套、俗悪なる形式作法に囚われなければならぬのか。 塵埃に塗れた、草や、木が、風雨を恋うるように、生活に疲れた人々は、清新な生命の泉に渇するのであります。詩の使命を知るものは、童話が、いかに、この人生に重大な位置にあるか・・・<小川未明「『小さな草と太陽』序」青空文庫>
  6. ・・・私の親戚のあわて者は、私の作品がどの新聞、雑誌を見ても、げす、悪達者、下品、職人根性、町人魂、俗悪、エロ、発疹チブス、害毒、人間冒涜、軽佻浮薄などという忌まわしい言葉で罵倒されているのを見て、こんなに悪評を蒙っているのでは、とても原稿かせぎ・・・<織田作之助「可能性の文学」青空文庫>
  7. ・・・そういう俗悪な精神になるのは止し給え。 僕の思っている海はそんな海じゃないんだ。そんな既に結核に冒されてしまったような風景でもなければ、思いあがった詩人めかした海でもない。おそらくこれは近年僕の最も真面目になった瞬間だ。よく聞いていてく・・・<梶井基次郎「海 断片」青空文庫>
  8. ・・・ 俗悪に対してひどい反感を抱くのは私の久しい間の癖でした。そしてそれは何時も私自身の精神が弛んでいるときの徴候でした。然し私自身みじめな気持になったのはその時が最初でした。梅雨が私を弱くしているのを知りました。 電車に乗っていてもう・・・<梶井基次郎「橡の花」青空文庫>
  9. ・・・彼の犀利の眼光はこのときすでに禅宗の遁世と、浄土の俗悪との弊を見ぬき、鎌倉の権力政治の害毒を洞察していた。二十一歳のときすでに法然の念仏を破折した「戒体即身成仏義」を書いた。 その年転じて叡山に遊び、ここを中心として南都、高野、天王・・・<倉田百三「学生と先哲」青空文庫>
  10. ・・・ 美しい眼、美しい手、美しい髪、どうして俗悪なこの世の中に、こんなきれいな娘がいるかとすぐ思った。誰の細君になるのだろう、誰の腕に巻かれるのであろうと思うと、たまらなく口惜しく情けなくなってその結婚の日はいつだか知らぬが、その日は呪うべ・・・<田山花袋「少女病」青空文庫>
  11. ・・・赤天狗青天狗銀天狗金天狗という順序で煙草の品位が上がって行ったが、その包装紙の意匠も名に相応しい俗悪なものであった。轡の紋章に天狗の絵もあったように思う。その俗衆趣味は、ややもすればウェルテリズムの阿片に酔う危険のあったその頃のわれわれ青年・・・<寺田寅彦「喫煙四十年」青空文庫>
  12. ・・・バックに緑色の布のかかった箪笥があって、その上に書物や新聞の雑然と置いてあるのがいかにもうるさくて絵全体を俗悪にしてしまうから、あとからすっかり塗りつぶしてそのかわりに暗緑色の幕をたれたようなぐあいに直してみた。そうしたら顔が急に引き立って・・・<寺田寅彦「自画像」青空文庫>
  13. ・・・ルツェルンには戦争と平和の博物館というのがあって、日露戦争の部には俗悪な錦絵がたくさん陳列してあったので少しいやになりました。至るところの谷や斜面には牧場が連なり、りんごが実って、美しい国だと思いました。 それからストラスブルクを見て、・・・<寺田寅彦「先生への通信」青空文庫>
  14. ・・・ずいぶん俗悪な木版刷りではあったが、しかし現代の子供の絵本のあくどい色刷りなどに比較して考えるとむしろ一種稚拙にひなびた風趣のあるものであったようにも思われる。 同じく昔の郷里の夏の情趣と結びついている思い出の売り声の中でも枇杷葉湯売り・・・<寺田寅彦「物売りの声」青空文庫>
  15. ・・・ら、モオリスは世のいわゆる高尚優美なる紳士にして伊太利亜、埃及等を旅行して古代の文明に対する造詣深く、古美術の話とさえいえば人に劣らぬ熱心家でありながら、平然として何の気にする処もなく、請負普請の醜劣俗悪な居室の中に住んでいる人があると慨嘆・・・<永井荷風「妾宅」青空文庫>
  16. ・・・三田派の或評論家が言った如く、その趣味は俗悪、その人品は低劣なる一介の無頼漢に過ぎない。それ故、知識階級の夫人や娘の顔よりも、この窓の女の顔の方が、両者を比較したなら、わたくしにはむしろ厭うべき感情を起させないという事ができるであろう。・・・<永井荷風「寺じまの記」青空文庫>
  17. ・・・小径の片側には園内の地を借りて二階建の俗悪な料理屋がある。その生垣につづいて、傾きかかった門の廡には其文字も半不明となった南畝のへんがくが旧に依って来り訪う者の歩みを引き留める。門をはいると左手に瓦葺の一棟があって其縁先に陶器絵葉書のたぐい・・・<永井荷風「百花園」青空文庫>
  18. ・・・けれども、江戸伝来の趣味性は九州の足軽風情が経営した俗悪蕪雑な「明治」と一致する事が出来ず、家産を失うと共に盲目になった。そして栄華の昔には洒落半分の理想であった芸に身を助けられる哀れな境遇に落ちたのであろう。その昔、芝居茶屋の混雑、お浚い・・・<永井荷風「深川の唄」青空文庫>
  19. ・・・菊人形の趣味に一層の俗悪を加えたものである。斯くの如き傾向はいつの時に其の源を発したか。混沌たる明治文明の赴くところは大正年間十五年の星霜を経由して遂にこの風俗を現出するに至ったものと看るより外はない。一たび考察をここに回らせば、世態批判の・・・<永井荷風「申訳」青空文庫>
  20. ・・・それで彼らのヴィジョンが破れ、悠々たる無限の時間が、非東洋的な現実意識で、俗悪にも不調和に破れてしまった。支那人は馳け廻った。鉄砲や、青竜刀や、朱の総のついた長い槍やが、重吉の周囲を取り囲んだ。「やい。チャンチャン坊主奴!」 重吉は・・・<萩原朔太郎「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」青空文庫>
  21. ・・・の主人公は少年であるけれども、どうしてあの小説が既成の社会通念――大人の世界のものの考えかたの俗悪な形式主義への抗議でないといえよう。 デュガールの「チボー家の人々」が、一九三〇年代より四〇年代の若い人々にとって、特に意味をもっているわ・・・<宮本百合子「生きつつある自意識」青空文庫>
  22. ・・・が、又このよき場所であるが故に、一層俗悪に見えるその黄金が、何と云う幻滅を感じさせますでしょう。純白な面に灼熱した炬火を捧げて、漂々たる河面から湧き上った自由の女神像こそ、その心持につり合って居りますでしょう。 それだのに、何故、私たち・・・<宮本百合子「C先生への手紙」青空文庫>
  23. ・・・況んや、私たちの生存を貫く建設能力、人間らしく生きる才能の核心であり、その推進の力であり得るだろうか。俗悪出版企業者は、現代の心理の一面を、誇張し、煽情し、刺戟して、一銭でもより多く投じさせようとする。営利映画会社では、より濃厚な情痴の場面・・・<宮本百合子「商売は道によってかしこし」青空文庫>
  24. ・・・京都では、この点、もっと俗悪に病的になり下っている。悲しいが憎めない奈良の若者の稚気ある口真似と比較にならない、憎々しさ、粗暴さが、見物人対手の寺僧にある。彼等は、毎日毎日いつ尽きるとも知れない見物人と、飽々する説明の暗誦と、同じ変化ない宝・・・<宮本百合子「宝に食われる」青空文庫>
  25. ・・・ 仕事ぶりも、恋愛も負債も、すべてに所謂度はずれなバルザックの生活ぶりに圧倒されて、同時代は勿論後世にも或る種の人は、バルザックを一種の人の好い俗悪な誇大妄想者であったというところで、自身納得しようとしたらしい。反感を含んだ批評家は、バ・・・<宮本百合子「バルザックに対する評価」青空文庫>
  26. ・・・作者永井荷風は、夏の夕方になると軒並にラウド・スピイカアのスウィッチを入れて、俗悪・卑雑な騒ぎを放散させる五月蠅さに堪りかねて、丁度十時頃ラジオの終るまでの時刻をどこかラジオのならないところで過す工夫をこらす。そして、遂に墨東、亀戸辺の私娼・・・<宮本百合子「「ラジオ黄金時代」の底潮」青空文庫>