つぶし【潰し】例文一覧 30件

  1. ・・・や近寄って、僧の前へ、片手、縁の外へ差出すと、先刻口を指したまま、鱗でもありそうな汚い胸のあたりへ、ふらりと釣っていた手が動いて、ハタと横を払うと、発奮か、冴か、折敷ぐるみ、バッタリ落ちて、昔々、蟹を潰した渋柿に似てころりと飛んだ。 僧・・・<泉鏡花「海異記」青空文庫>
  2. ・・・一層お前、わ、私の眼を潰しておくれ、そうしたら顔を見る憂慮もあるまいから。」「そりゃ不可えだ。何でも、は、お前様に気を着けて、蚤にもささせるなという、おっしゃりつけだアもの。眼を潰すなんてあてごともない。飛んだことをいわっしゃる。それに・・・<泉鏡花「琵琶伝」青空文庫>
  3. ・・・ 同時に、蛇のように、再び舌が畝って舐め廻すと、ぐしゃぐしゃと顔一面、山女を潰して真赤になった。 お町の肩を、両手でしっかとしめていて、一つ所に固った、我が足がよろめいて、自分がドシンと倒れたかと思う。名古屋の客は、前のめりに、近く・・・<泉鏡花「古狢」青空文庫>
  4. ・・・それまでは文学を軽視し、内心「時間潰し」に過ぎない遊戯と思いながら面白半分の応援隊となっていたが、それ以来かくの如き態度は厳粛な文学に対する冒涜であると思い、同時に私のような貧しい思想と稀薄な信念のものが遊戯的に文学を語るを空恐ろしく思った・・・<内田魯庵「二葉亭余談」青空文庫>
  5. ・・・ 私はあまりに不意なので肝を潰した。「本当ですか。」「本当とも、じつはね、こんな所にこんなに永く逗留するつもりじゃなかったんだが、君とも心安くなるし、ついこんなに永逗留をしてしまったわけさ、それでね、君に旅用だけでも遺してってあ・・・<小栗風葉「世間師」青空文庫>
  6. ・・・「――まあ、そう言うな。潰してしまっても、もともとたいした新聞じゃなかったんだから……」 と、笑っていると、お前は暫らくおれの顔を見つめていたが、何思ったか、いきなり、「――冗談言うと、撲りますぞ」 と、言って出て行き、それ・・・<織田作之助「勧善懲悪」青空文庫>
  7. ・・・ 自分はクルリと寝返りを打ったが、そっと口の中で苦笑を噛み潰した。 六円いくら――それはある雑誌に自分が談話をしたお礼として昨日二十円届けられた、その金だった。それが自分の二月じゅうの全収入……こればかしの金でどう使いようもないと思・・・<葛西善蔵「死児を産む」青空文庫>
  8. ・・・私は手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。奇怪な幻想的な城が、そのたびに赤くなったり青くなったりした。 やっとそれはでき上がった。そして軽く跳りあがる心を制しながら・・・<梶井基次郎「檸檬」青空文庫>
  9. ・・・ と光代は奪上げ放しに枕の栓を抜き捨て、諸手に早くも半ば押し潰しぬ。 よんどころなく善平は起き直りて、それでは仲直りに茶を点れようか。あの持って来た干菓子を出してくれ。と言えば、知りませぬ。と光代はまだ余波を残して、私はお湯にでも参りま・・・<川上眉山「書記官」青空文庫>
  10. ・・・うとう一尾も釣れずに家へ帰ると、サア怒られた怒られた、こん畜生こん畜生と百ばかりも怒鳴られて、香魚や山やまめは釣れないにしても雑魚位釣れない奴があるものか、大方遊んでばかりいやがったのだろう、この食い潰し野郎めッてえんでもって、釣竿を引奪ら・・・<幸田露伴「雁坂越」青空文庫>
  11. ・・・「臙脂屋を捻り潰しなさらねばなりますまいがノ。貴殿の御存じ寄り通りになるものとのみ、それがしを御見積りは御無体でござる。」「ム」「申した通り、此事は此事、左京一分の事。我等一党の事とは別の事にござる。」「と云わるるは。扨は何・・・<幸田露伴「雪たたき」青空文庫>
  12. ・・・その虫を踏み潰して、緑色に流れる血から糸を取り、酢に漬け、引き延ばし、乾し固め、それで魚を釣ったことを思出した。彼は又、生きた蛙を捕えて、皮を剥ぎ、逆さに棒に差し、蛙の肉の一片に紙を添えて餌をさがしに来る蜂に与え、そんなことをして蜂の巣の在・・・<島崎藤村「岩石の間」青空文庫>
  13. ・・・自分の不平を噛み潰しているのである。みな頭と肩との上に重荷を載せられているような圧を感じている。それだからその圧を加えられて、ぽうっとしてよろめきながら歩いているのである。そんな風であるから、どうして外の人の事に気を留める隙があろう。自分と・・・<著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外「鴉」青空文庫>
  14. ・・・そうして、その婦女子のねむけ醒しのために、あの人は目を潰してしまいまして、それでも、口述筆記で続けたってんですから、馬鹿なもんじゃありませんか。 余談のようになりますが、私はいつだか藤村と云う人の夜明け前と云う作品を、眠られない夜に朝ま・・・<太宰治「小説の面白さ」青空文庫>
  15. ・・・わざと押し潰しているような低いかすれた声であった。「右の奥歯がいたくてなりません。歯痛ほど閉口なものはないね。アスピリンをどっさり呑めば、けろっとなおるのだが。おや、あなたを呼んだのは僕だったのですか? しつれい。僕にはねえ」私の顔をちらと・・・<太宰治「ダス・ゲマイネ」青空文庫>
  16. ・・・の力で押されて山腹を下り、その余力のほんのわずかな剰余で冷却固結した岩塊を揉み砕き、つかみ潰して訳もなくこんなに積み上げたのである。 岩塊の頂上に紅白の布片で作った吹き流しが立っている。その下にどこかの天ぷら屋の宣伝札らしいものがある。・・・<寺田寅彦「浅間山麓より」青空文庫>
  17. ・・・「いやだ、俺ァ……、あの麦に指一本でもさわってみろ、こんだァあの娘ッ子を、あいつが麦を踏みちぎったように、あの断髪頭をたたき潰してやる……」――<徳永直「麦の芽」青空文庫>
  18. ・・・一同喜び、狐の忍入った小屋から二羽の鶏を捕えて潰した。黒いのと、白い斑ある牝鶏二羽。それは去年の秋の頃、綿のような黄金色なす羽に包まれ、ピヨピヨ鳴いていたのをば、私は毎日学校の行帰り、餌を投げ菜をやりして可愛がったが、今では立派に肥った母鶏・・・<永井荷風「狐」青空文庫>
  19. ・・・豆腐屋が豆を潰したり、呉服屋が尺を度ったりする意味で我々も職業に従事する。上下挙って奔走に衣食するようになれば経世利民仁義慈悲の念は次第に自家活計の工夫と両立しがたくなる。よしその局に当る人があっても単に職業として義務心から公共のために画策・・・<夏目漱石「文芸と道徳」青空文庫>
  20. ・・・玉を並べた様な鋲の一つを半ば潰して、ゴーゴン・メジューサに似た夜叉の耳のあたりを纏う蛇の頭を叩いて、横に延板の平な地へ微かな細長い凹みが出来ている。ウィリアムにこの創の因縁を聞くと何にも云わぬ。知らぬかと云えば知ると云う。知るかと云えば言い・・・<夏目漱石「幻影の盾」青空文庫>
  21.         一それだから今日すなわち四月九日の晩をまる潰しにして何か御報知をしようと思う。報知したいと思う事はたくさんあるよ。こちらへ来てからどう云うものかいやに人間が真面目になってね。いろいろな事を見たり聞たり・・・<夏目漱石「倫敦消息」青空文庫>
  22. ・・・ 小林が彼と肩を並べようとする刹那、彼は押し潰した畳みコップのように、ペシャッとそこへ跼った。 小林はハッとした。 と、同時に川上の捲上の方を見た。が、そっちは吹雪に遮られて、何物も見えなかった。よし、見えたにしても、もう皆登り・・・<葉山嘉樹「坑夫の子」青空文庫>
  23. ・・・ぎごちなくなった指を伸ばして、出そうになった欠を噛み潰した。そしてやおらその手を銀盤の方へ差し伸べた。盤上には数通の書簡がおとなしく待っていたのである。 ピエエルは郵便を選り分けた。そしてイソダン郵便局の消印のある一通を忙わしく選り出し・・・<著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外「田舎」青空文庫>
  24. ・・・そう云うやつは、みんなたたき潰してやるぞ。ぜんたい何の証拠があるんだ。」「証人がある。証人がある。」とみんなはこたえました。「誰だ。畜生、そんなこと云うやつは誰だ。」と盗森は咆えました。「黒坂森だ。」と、みんなも負けずに叫びまし・・・<宮沢賢治「狼森と笊森、盗森」青空文庫>
  25. ・・・「何をぐずぐずしてるんだ。潰してしまえ。灼いてしまえ。こなごなに砕いてしまえ。早くやれっ。」楢ノ木大学士はびっくりして大急ぎで又横になりいびきまでして寝たふりをしそっと横目で見つづけた。ところが今のどなり声は大学・・・<宮沢賢治「楢ノ木大学士の野宿」青空文庫>
  26. ・・・かつてウラジヴォストクからコルチャック軍と一緒にプロレタリアートのソヴェト・ロシア揉潰しを試みて成功しなかった日本帝国主義軍、自覚のない、動員された日本プロレタリアートの息子たちが出入りした。次に、利権やとゲイシャと料理屋のオカミがウラジヴ・・・<宮本百合子「新しきシベリアを横切る」青空文庫>
  27. ・・・ 若し始めっから潰す量見で来たんならもう少し潰しでのあるところへお輿を据えたらいいだろう。 何も二人に未練はありゃあしない。 ああさっぱりしたもんさ、水の様にね。 あんまり調子づいて、心にない事まで云って仕舞ったお金は、・・・<宮本百合子「栄蔵の死」青空文庫>
  28. ・・・秀麿が心からでなく、人に目潰しに何か投げ附けるように笑声をあびせ掛ける習癖を、自分も意識せずに、いつの間にか養成しているのを、奥さんは本能的に知っているのである。 食事をしまって帰った時は、明方に薄曇のしていた空がすっかり晴れて、日光が・・・<森鴎外「かのように」青空文庫>
  29. ・・・後にそれを買い潰して、崖の下に長い柱を立てて、私の家と軒が相対するような二階家の広いのを建てたものがある。眺望の好かった私の家は、その二階家が出来たために、陰気な住いになった。安国寺さんの来たのは、この二階造の下宿屋である。 しかし東京・・・<森鴎外「二人の友」青空文庫>
  30. ・・・やがて薄暗いような大きい御殿へ来て、辺の立派なのに肝を潰し、語らえばどこまでもひびき渡りそうな天井を見ても、おっかなく、ヒョット殿さまが出ていらしッたらどうしようと、おそるおそる徳蔵おじの手をしっかり握りながら、テカテカする梯子段を登り、長・・・<若松賤子「忘れ形見」青空文庫>