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・・・お客に褒められ、友達の折合も好い、愛敬のあるお蝶が、この内のお上さんに気に入っているのは無理もない。 今一つ川桝でお蝶に非難を言うことの出来ないわけがある。それは外の女中がいろいろの口実を拵えて暇を貰うのに、お蝶は一晩も外泊をしないばか・・・
森鴎外
「心中」
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・・・父が患者に対して愛嬌をふりまくとか、患者を心服せしめるためにホラを吹くとか、そういう類の外交術をやっている場面はかつて見たことがないが、病気と聞いて即座に飛び出して行かない場合もかつてなかったと思う。田舎のことであるから、こういう生活はかな・・・
和辻哲郎
「蝸牛の角」