・・・大事なことだ。」あからさまに憤怒の口調になっていた。喧嘩になってもいいと思った。「山田君も山田君だ。そんな大事なことを一言も僕に教えてくれなかったというのは不親切だ。僕は、こんどの世話はごめんこうむる。僕はもう小坂さんの家へは顔出しできない・・・ 太宰治 「佳日」
・・・る、おやじ、おれにもその生葡萄酒ちょうものを一杯ついでもらいたい、ふむ、これが生葡萄酒か、ぺっぺ、腐った酢の如きものじゃないか、ごめんこうむる、あるじ勘定をたのむ、いくらだ、とわれを嘲弄せんとする意図あからさまなる言辞を吐き、帰りしなにふい・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・籠ランプの灯を浅く受けて、深さ三尺の床なれば、古き画のそれと見分けのつかぬところに、あからさまならぬ趣がある。「ここにも画が出来る」と柱に靠れる人が振り向きながら眺める。 女は洗えるままの黒髪を肩に流して、丸張りの絹団扇を軽く揺がせば、・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・では、ナチス治下の教育が、どんなにドイツの少年たちを毒しているかをあからさまにしたもので、映画化され、世界に深甚な影響をあたえた。エリカ・マンはまた子供のための冒険物語「シュトッフェルの海外旅行」をも書いているそうである。 ナチス・ドイ・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・ち、色紙の辞句にあらわれたような観念的でまた独善的な、いわば神がかりの主観にたって、これらの人々は世界の現実をあやまり、戦争を狩りたて、わたしたち全日本人民の生活を破滅させたのだという事実が、いっそうあからさまに示されていることなのである。・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・しかし、資本主義の社会体制が保たれることで特権をもってゆける支配階級の人々は、あらゆる手段をつくして新しい社会体制の発展を遅らせようと努力していますし、あからさまに人民大衆を犠牲にして、社会的混乱を拡大し、深め、その間に新しい歴史をつくって・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・当時は、そういうことをあからさまに書くという心持そのものが抗議をあらわすものとされていて、治安維持法の対象とされたのだった。あの頃の作者と読者とはほんとに敏感で、おたがいに片言でものを云って、それでやっと心を通わせ合って暮した。そんなに日本・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第五巻)」
・・・回国際ペンクラブ大会へ出席した島崎藤村が、この大会の世界ファシズムに反対する決議や世界平和と文化を守る決議に当惑して、日本の文学者として何一つ責任ある発言をさけてかえってきたことは、当時の日本の状態をあからさまに語っている。こういう有様であ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・に描かれているあからさまな破壊とそれをしのぐ人間精神にひかれたのではなかったろうか。 三 遊廓は、封建的な婦女の市場だった。徳川時代、武士と町人百姓の身分制度はきびしくて、町人からの借金で生計を保つ武士にも・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・そして、一九二八年三月十五日、三・一五として歴史的に知られている事件のころから共産党の組織に全国的にはいりはじめていた警察スパイが、最もあからさまに活躍して、様々の金銭問題、拐帯事件、男女問題を挑発し、共産党員を破廉恥な行為へ誘いこみながら・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
出典:青空文庫