・・・理性のある社会の生活であると思うことのできないあからさまな不合理が強いられている。 社会の新しい歴史は人民によってのみ推しすすめられる。この必然は、この現実のなかに生れてきているのである。 国鉄整理にからんでおこった下山国鉄総裁・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・女で、職業や仕事をもっている人のとき、私たちは、どうせ楽なのではないから、とこの現実の裡で家庭と仕事を両立させて行こうとする女の困難さをあからさまに見た上で、大変だろうがという反面に、でもね、と認めるものがあったのである。 結婚の幸福と・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・現実の推移をその受動性のために最もあからさまに映してゆく女性が、系譜的な作品にとって、てっとりばやい主人公とされていたことに、この系列の文学の弱さが語られた。系譜的作品が時代と人との意欲から生れる発展的な生活の物語とならず、いわば流転譚の域・・・ 宮本百合子 「作品の主人公と心理の翳」
・・・ ジイドは、新しい社会が克服すべきものを指摘した過程において、一層あからさまに自己の克服すべきものを示した。彼の旅行記に対する『プラウダ』の批評やその他の批評を、ジイドは、どう摂取するであろうか。これは自分の真実であると固執することによ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・こんにちの世界で、どこの国の人民に対しても、原子兵器を使ってそこの重要都市を破壊し、住民をみなごろしにしてやるがいいというような暴言をはくものは、あからさまな戦争の火つけ人である。日本のわたしたちが国連を支持するとならば、それは国連の良心を・・・ 宮本百合子 「世界は求めている、平和を!」
・・・このことは、婦人運動史がよく示しているし、婦人参政権運動史が、あからさまに語っている。婦人が、一般論として男子と差別のない参政権を求めたとき、イギリスの婦人たちに参政権を与えたのは、保守党であった。日本で一九四六年、婦人参政権を与えたのも保・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・は私が自分のはれものにさわるよりなおおそろしくその結果の思いやられて居た割にお妙ちゃんがはっきりして居て呉れたと云う事は幾分かあてがはずれた様な気もするけれ共思ってることをこらえて見るんだろうと思うとあからさまに表わされたよりはるかに私の心・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・きのうも奴頭の帰ったあとで、いろいろに詞を設けて尋ねたが、姉はひとりで何事をか考えているらしく、それをあからさまには打ち明けずにしまった。 山の麓に来たとき、厨子王はこらえかねて言った。「姉えさん。わたしはこうして久しぶりで一しょに歩く・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・あえてあからさまに過去と現在とを告げて徴求の源をふさぐ。 顧炎武はかつて牌を室に懸けて応酬文字を拒絶した。この「なかじきり」もまた顧家懸牌の類である。大正六年九月 森鴎外 「なかじきり」
・・・けれど今あからさまにその性質を言おうなら、なるほど忍藻はかなり武芸に達して、一度などは死にかかっている熊を生捕りにしたとて毎度自慢が出たから、心も十分猛々しいかと言うに全くそうでもない。その雄々しく見えるところはただ時々の身の挙動と言葉のあ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫