・・・つねに一言の悪罵を以て片づけられて来た。僕の作品はバイキンのようにきらわれた。僕は僕の作品の一切の特徴を捨ててしまおうと思った。僕がけなされている時、同時にほめられている作家のような作品を書いてやろうとさえ思った。そのような作品を書くことは・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
・・・火事は一夜で燃え尽しても、火事場の騒ぎは、一夜で終るどころか、人と人との間の疑心、悪罵、奔走、駈引きは、そののち永く、ごたついて尾を引き、人の心を、生涯とりかえしつかぬ程に歪曲させてしまうものであります。この、前代未聞の女同士の決闘も、とに・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・どのような悪罵を父から受けても、どのような哀訴を母から受けても、私はただ不可解な微笑でもって応ずるだけなのである。針の筵に坐った思いとよく人は言うけれども、私は雲霧の筵に坐った思いで、ただぼんやりしているのである。 ことしの夏も、同じこ・・・ 太宰治 「玩具」
・・・ひとりでも多くのものに審判させ嘲笑させ悪罵させたい心からであった。有夫の婦人と情死を図ったのである。私、二十二歳。女、十九歳。師走、酷寒の夜半、女はコオトを着たまま、私もマントを脱がずに、入水した。女は、死んだ。告白する。私は世の中でこの人・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・そこに、その茶店の床几に、私は、この少年を連れていって、さっきの悪罵の返礼をしようと、たくらんでいたのである。私を、あまりにも愚弄した。少し、たしなめてやらなければならぬ。 若い才能と自称する浅墓な少年を背後に従え、公園の森の中をゆった・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・反対に、私の作品に、悪罵を投げる人を、例外なく軽蔑する。何を言ってやがると思う。 こんど河出書房から、近作だけを集めた「女の決闘」という創作集が出版せられた。女の決闘は、この雑誌に半箇年間、連載せられ、いたずらに読者を退屈がらせた・・・ 太宰治 「自作を語る」
・・・孤高狷介のこの四十歳の天才は、憤ってしまって、東京朝日新聞へ一文を寄せ、日本人の耳は驢馬の耳だ、なんて悪罵したものであるが、日本の聴衆へのそんな罵言の後には、かならず、「ただしひとりの青年を除いて」という一句が詩のルフランのように括弧でくく・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・ 最も早くからケーテの才能を認めて、そのために一部の者からは脳軟化症だなどと悪罵された批評家エリアスは、心をこめて、この連作が「確りしたつよい健康な手で、怖ろしい真実をもぎとって来たような像である」ことを慶賀した。 展覧会の委員は満・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・ それにしても一通り考えると、まるで見当違いなこの圭子に対する悪罵を、何故千鶴子は書かねばいられなかったのであろう? 圭子はぼやかしたところのない性格で、ずばずば口を利いたし、勝気でもあるから、気の開けない千鶴子の癪にさわることもあった・・・ 宮本百合子 「沈丁花」
・・・であること「自分の陣営内の同志の過失を訂そうとして、政治上の敵に対すると同じ悪罵と論難とを加えること」「自分の仲間を一人一人敵の陣営につき出そうとするような言動は、われわれは例えばどんな動機からでも避けなくてはならない」 他の一つは、ど・・・ 宮本百合子 「前進のために」
出典:青空文庫