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・・・と北へ行かないじゃいまいよ」「ふーん」 暫くまた二人の話をきいていたが、一太は行儀よくしていることに馴れないから、籠に入れられた犬のように節々がみしみしして来た。一太は「アアー」と欠伸をしながら延びをした。「何ですね一ちゃんは!・・・
宮本百合子
「一太と母」
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・・・宮沢が欠をする。下女が欠を噬み殺す。そういう風で大分の間過ぎたのだそうだ。そのうちある晩風雪になって、雨戸の外では風の音がひゅうひゅうとして、庭に植えてある竹がおりおり箒で掃くように戸を摩る。十時頃に下女が茶を入れて持って来て、どうもひどい・・・
森鴎外
「独身」