・・・「春はあけぼの、ようよう白くなりゆく」時が来たのである。 芥川竜之介 「道祖問答」
・・・馬空を駈けるという思い切ったあばれ方で、ことにも外国の詩の飜訳みたいに、やたらに行をかえて書く詩が大流行いたしまして、私の働いている印刷所にも、その詩の連中が機関雑誌を印刷してくれと頼みに来まして、「あけぼの」という題の、二十頁そこそこのパ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・春はあけぼの、という文章をちらと思い浮べていい気持であったが、それは清少納言の文章であった事に気附いて少し興覚めた。あわてて机の本立から引き出した本は、「ギリシャ神話」である。すなわち異教の神話である。ここに於いて次女のアアメンは、真赤なに・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・長い間人目につかない所でこつこつ勉強して力を養っていた人間がある日の運命のあけぼのに突然世間に顔を出すようなものである。 ネオンサインもあっちこっちとむやみにふえるが、このほうは建築とちがって一夜にでもわずかな費用で取り付けられる。その・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・ 家を引き払ってからしばらくの間、鍛冶橋外の「あけぼの」という旅館に泊まっていた。現在鍛冶橋ホテルというのがあるが、ほぼあれと同位置にあったと思われる。「あけぼの」の二階の窓から見おろすと、橋のたもとがすぐ目の下にあった。そこに乞食・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・妹である母は、高島田に紫と白のあけぼの染めの絹房の垂れたかんざしをさした頭を下げて、兄の借金の云いわけをしたのであった。 従って謙吉さんのつよく大きい人柄は誇張されて一家のものから評価され、たよられていたと思われる。そういう実家のごたご・・・ 宮本百合子 「田端の汽車そのほか」
・・・「草枕」「あけぼの」「春は来ぬ」「潮音」「君がこゝろは」「狐のわざ」「林の歌」等いずれも、自然にうち向かって心を傾け物を云いかけ、人か自然か自然か人かというロマンティックな境地にひたって作者は自然を擬人化し、それに対置して「されば、落葉と身・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
出典:青空文庫