・・・わたしの召使いの女の中にも、同じ年の女は二三人います。阿漕でも小松でもかまいません。あなたの気に入ったのをつれて行って下さい。 使 いや、名前もあなたのように小町と云わなければいけないのです。 小町 小町! 誰か小町と云う人はいなか・・・ 芥川竜之介 「二人小町」
・・・家数四五軒も転がして、はい、さようならは阿漕だろう。」 口を曲げて、看板の灯で苦笑して、「まず、……極めつけたものよ。当人こう見えて、その実方角が分りません。一体、右側か左側か。」と、とろりとして星を仰ぐ。「大木戸から向って左側・・・ 泉鏡花 「菎蒻本」
・・・といって釣に出て釣らなくても可いという理屈はありませんが、アコギに船頭を使って無理にでも魚を獲ろうというようなところは通り越している人ですから、老船頭の吉でも、かえってそれを好いとしているのでした。 ケイズ釣というのは釣の中でもまた他の・・・ 幸田露伴 「幻談」
・・・それを弥が上にもアコギな掘出し気で、三円五十銭で乾山の皿を買おうなんぞという図ずうずうしい料簡を腹の底に持っていたとて、何の、乾也だって手に入る訳はありはしない。勧業債券は一枚買って千円も二千円もになる事はあっても、掘出しなんということは先・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・元来己を捨てるということは、道徳から云えばやむをえず不徳も犯そうし、知識から云えば己の程度を下げて無知な事も云おうし、人情から云えば己の義理を低くして阿漕な仕打もしようし、趣味から云えば己の芸術眼を下げて下劣な好尚に投じようし、十中八九の場・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
出典:青空文庫