・・・それよりは「あまかける恋」におけるゲーブルとクロフォードとのユーモラスなものの下に語られる男の真心というようなものの方がさっぱりしていて、笑えるだけでも成功であったと思う。ぎょうぎょうしくて、しかも愚劣であったのは「恋人の日記」である。・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
随分昔のことであるけれども、房州の白浜へ行って海女のひとたちが海へ潜って働くのや天草とりに働く姿を見たことがあった。 あの辺の海は濤がきつく高くうちよせて巖にぶつかってとび散る飛沫を身に浴びながら歌をうたうと、その声は・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・講和というような事柄は大きい問題だからそれが働く人に関係のある事なら男の組合員がなんとか決議してくれるだろうし、政府もまさか日本のみんながドレイになる様な事は出来まいと考えているとすれば、あんまり、あま過ぎます。吉田首相は去年の秋頃、読売新・・・ 宮本百合子 「今年こそは」
・・・ 細い亜麻色のお下髪を小さい背中にたらして、水色縞の粗末なフランネル服を着ている少女はずっと日本女の右隣に坐っている。しずかに行儀よく坐って話をきき、あまり数字ばっかりマイクロフォンから鳴り響いた五ヵ年計画の話の時は右手をフランネル服の・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・然し、中高な引しまった表情を、淋しげに亜麻色の髪の下に浮べたインディアンの娘は、殆ど誰も誰もが、地味な陰気な黒い着物を着て居ります。笑いも致しません。陽気な声で物も申しません。親ゆずりの靴を履いた足音を静かに立てて、彼方の部落へ姿を消して仕・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 四月二十八日 那須 ○まだ若葉どころかやっと芽のあま皮がむけたばかり ○笹芝にまじって春輪どうの小さい碧い色の花が咲いて居る。 ○山の皺にまだ雪アリ ○四五月頃の温泉あまりよくなし。 ○枯山に白くコ・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・「汝等あまでたかってからに、こげえな貧乏おっかあをひでえ目に会わせくさる! あんでも父っちゃんに買って貰っちゃ、呉れるちゅう金え、突返すほどのお大尽たあ知んねえで、我が食うもんもはあ食わねえようにして、稼えでたんなあ、さぞええざまだ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・このごろの上下の衆のもどらるゝ 去来腰に杖さす宿の気ちがひ 芭蕉二の尼に近衛の花のさかりきく 野水蝶はむぐらにとばかり鼻かむ 芭蕉芥子あまの小坊交りに打むれて 荷兮・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・それからいろいろの新聞の記事の扱いにあま下りもあって決して自由でないことも知っていらっしゃる。出版が自由でないことも知っていらっしゃいます。そういう時に、選挙を前にして、私どもが既成政党の政治の腐敗を心から嫌って、新しい人生を明日につくりた・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・そうして並木をぬけ、長く続いた小豆畑の横を通り、亜麻畑と桑畑の間を揺れつつ森の中へ割り込むと、緑色の森は、漸く溜った馬の額の汗に映って逆さまに揺らめいた。 十 馬車の中では、田舎紳士の饒舌が、早くも人々を五年以来・・・ 横光利一 「蠅」
出典:青空文庫