・・・ 未成年者や児童は安価な搾取材料だ! お前の轢殺車の道に横わるもの一切、農村は蹂られ、都市は破壊され、山野は裸にむしられ、あらゆる赤ん坊はその下敷きとなって、血を噴き出す。肉は飛び散る。お前はそれ等の血と肉とを、バケット・コンベヤー・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・荒木をはじめとしてABC順にならべられた二十五名の名は、わたしたち日本の男女が、馬よりも安価な戦争資材として扱われなければならなかった過ぎし日のことをまざまざとおもいおこさせた。あの日の命令者は、人類の平和にたいする罪悪的命令者であったとい・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・肉体派、中間小説派の作者たちとその作品のそまつな戦後的商品性を、へど的にむき出してその安価さを排撃した。けれども、「小豚派作家論」と題してきり出された勇ましいその評論も、すえは何となししんみりして、最後のくだり一転は筆者がひとしおいとしく思・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・その後東宝経営者は、興業資本の利潤追及の方向を強化して、保守的な文化性の低いスター中心に作った第二組合に、安価なエロ・グロ・剣劇映画を作らせ第一組合を無活動におとしいれ数百名のくびきりを行った。 輸入映画が国外の興業資本によって日本の文・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・一応とりあげられている、穀物の安価、馬を熊にとられた事件等だけでは読者に北海道へ移住した農民の深刻などたん場の有様がうつらないのである。それは主人公宗一の移民としての日常生活があまり深く現実的にかかれていないところからも来ると思う。文章に、・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・以上のような安価な見透しに立って、インテリゲンチア作家たちは、つまりマルクス主義のこちら側で、自己をうちたてよう、強い自己を文学の上にうちたてて右からの波、左からの吸引に対し、高邁に己れ一人を持そうとしていると観察されるのである。純文学家が・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ 大宅氏は、『文芸』の論文で腹立たしげな口ぶりをもって、「日本の文化全体を支配している安価な適応性の一つ」として転向の風に颯爽と反抗するプロレタリア作家の見えないことを痛憤している。階級的立場のはっきりした人物は、今日、加藤勘十が見得を・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・例えば信州の山奥で繭安価のために貧窮し、組合の組織を求めるようになった一農夫を描くとする。われわれプロレタリア作家の眼が、ただその局部的現象だけを捕えたのでは足りない。言葉としてその小説の中に書かれないにしろ、プロレタリア作家は信州の繭安価・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
・・・ 私はきのう窓から見た 一人の旅人が、黒く行く姿を 足跡が深く雪に遺るのを…… 階下の六畳では、行火に当りながらせきがその音楽を聴いていた。うめはもう寝ている。厠へ通う人に覗かれないように、部屋の二方へ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・あるいはまた急に踏まれた安価にまけて、買い手を呼び止める、買い手はそろそろ逃げかけたので、『よろしい、お持ちなされ!』 かれこれするうちに辻は次第に人が散って、日中の鐘が鳴ると、遠くから来た者はみな旅宿に入ってしまった。 シュー・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
出典:青空文庫