・・・ この芝居をみていて深く感じたことは演劇のとりしまりや自粛がどんなに芸術の生命を活かすものでなければならないか、ということであった。 云わでものことのようなことを沁々と思わずにいられないものがあった。従来の歌舞伎の番組には徳川末・・・ 宮本百合子 「“健全性”の難しさ」
・・・よりははるかに前進した社会性と、自分を生かす可能をもっている。それにもかかわらず、日本の家、家庭、夫と妻の関係の現実の大部分には、なお彼女たちに「伸子」をひとごとと思わせない苦悩の要素が実在している。そうではあるが、それが二十五歳だった「伸・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・この間、大衆の健全な娯楽、階級的な文化の一般的啓蒙、あらゆる角度と種類からの労働者階級の文学、民主主義文学の創造と普及とは、必ずしもそれぞれの特殊性を有機的にいかすくみ合わせで組立てられてもいなかったし、動かされてもいなかった。 一九四・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 貴司悦子さんの近著『村の月夜』を贈られ、それを通読して、私は、母である女のひとが自分の文学的な才能を、子供のために活かすことの自然さに打たれるところがあった。「ローラア」「にわとり」「乗合自動車」などは、直接幼い子供の感覚の内に入って・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・生きるために、いかす力をもった政党を支持しなければならず、日本を民主化するためには本当に民主的な方針をもった政党を支持しなければなりません。病気で死にたくないならばヤブ医者を頼みません。共産党がきらいな人はたくさんあるでしょう。けれども死ぬ・・・ 宮本百合子 「今度の選挙と婦人」
・・・それぞれにその作家の今日の心持が語られているわけなのだが、作家としての特徴を生かすことを語っている徳永直氏の文章が具体的で、わかりよかった。 ほかのあれこれも読んでいるうちに、今日作家が書くこの種の文章に、一つの特色の現れていることに注・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・これらの作品の題材の特異性、特異性を活かすにふさわしい陰影の濃い粘りづよい執拗な筆致等は、主人公の良心の表現においても、当時の文壇的風潮をなしていた行為性、逆流の中に突立つ身構えへの憧憬、ニイチェ的な孤高、心理追求、ドストイェフスキー的なる・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・雁金がリアリズムの見地でリアルであるかないかは、彼にとって問題でなく、作者が自分の主張の代人である久内を自由人として鋳出すに必要なワキ役のタイプとしていかす必要にだけ腹をすえて、雁金も山下も、妻、初子すべてを扱っている。長篇「紋章」の終りに・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・有象無象の大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭にかかっている。これは眼前の事実であろうか、夢であろうか。とにかく、事はあまりに重大すぎて想像に伴なう実感が梶には起らなかった。「しかし、君がそうして自由に外出できるところを見ると、まだ看視はそ・・・ 横光利一 「微笑」
・・・実生活のあるきわどい瞬間に画家の眼に烙きついた印象を生かすほかはないのである。そうしてそれは洋画家にとって困難であるわりに、日本画家にとっては困難でない。もとより洋画家の内にもこの事に成功した名人は少なくないが、――そうして洋画によって成功・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫