・・・塗り残された未完成の画の示唆的なおもしろさ、それを巧妙に生かすのは日本画の伝統の著しい特徴であった。そこには多くの想像の余地が残される。不幸にもそれは堕落してごまかしの伝統を造ったが、それ自身には堕落した手法とは言えない。もし「意味深い形」・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・ショーペンハウエルの意志否定はかなり根元的の否定であるが、しかし彼の解脱――意志なき認識や涅槃などにおいては、なお真実に自己を活かすことが出来ると思う。 真実の自己は、意識的に分析する事の出来ないものである。それは様々な本能から成り立っ・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
・・・自己を真実に活かすための種々の葛藤。自己の価値と運命とについての信念、情熱、不安。個性の最上位を信じながら社会的勢力との妥協を全然捨離し得ない苦悶。愛の心と個性を重んずる心との争い。個性と愛とを大きくするための主我欲との苦闘。主我欲を征服し・・・ 和辻哲郎 「「ゼエレン・キェルケゴオル」序」
・・・一つの不幸を真に意義深く生かす所の力は、あくまでも自己自身についての微妙な、鋭敏な、厳格な認識と批評とである。事実の責任を他に嫁せずして自己に帰することである。我々は自己の運命を最もよく伸びさせるために、いたずらに過去をくやしがるような愚に・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫