・・・ と小宮山は友人の情婦ではあり、煩っているのが可哀そうでもあり、殊には血気壮なものの好奇心も手伝って、異議なく承知を致しました。「しかし姐さん、別々にするのだろうね。」「何でございます。」「何その、お床の儀だ。」「おほほ・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・損害の程度がやや考量されて来ると、天災に反抗し奮闘したのも極めて意義の少ない行動であったと嘆ぜざるを得なくなる。 生活の革命……八人の児女を両肩に負うてる自分の生活の革命を考うる事となっては、胸中まず悲惨の気に閉塞されてしまう。 残・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・それから源氏物語を読んだが読めればこそ、一行も意義を解しては読めない。省作は本を持ったまま仰向きにふんぞり返って天井板を見る。天井板は見えなくておとよさんが見える。 今夜は湯に行かない方がええかしら。そうだゆくまい。行かないとしよう。な・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・これはもとより母の指図で誰にも異議は云えない。「マアあの二人を山の畑へ遣るッて、親というものよッぽどお目出たいものだ」 奥底のないお増と意地曲りの嫂とは口を揃えてそう云ったに違いない。僕等二人はもとより心の底では嬉しいに相違ないけれ・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・と、僕の方から口を切って、もし両親に異議がないなら、してまた本人がその気になれるなら、吉弥を女優にしたらどうだということを勧め、役者なるものは――とても、言ったからとて、分るまいとは思ったが、――世間の考えているような、またこれまでの役者み・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ 殊にお掛屋の株を買って多年の心願の一端が協ってからは木剣、刺股、袖搦を玄関に飾って威儀堂々と構えて軒並の町家を下目に見ていた。世間並のお世辞上手な利口者なら町内の交際ぐらいは格別辛くも思わないはずだが、毎年の元旦に町名主の玄関で叩頭を・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・葉は到る所に看出さる、而して是は単に非猶太的なる路加伝に就て言うたに過ぎない、新約聖書全体が同じ思想を以て充溢れて居る、即ち知る聖書は来世の実現を背景として読むべき書なることを、来世抜きの聖書は味なき意義なき書となるのである、「我等主の懼る・・・ 内村鑑三 「聖書の読方」
・・・ということがこんなに、このときほど意義のあることに思われたかわかりません。「死なずに幸福の島へ渡れないものだろうか。」 多くの人々の中には、身を海に投げてしまって、はたして、ふたたび生まれ変わるだろうかという疑いをもったものもおりま・・・ 小川未明 「明るき世界へ」
・・・故に、習慣に累せられず、知識に妨げられずに、純鮮なる少年時代の眼に映じた自然より得来た自己の感覚を芸術の上に再現せんとして、努力するのは、蓋し、茲に甚大の意義を有することを知からである。・・・ 小川未明 「感覚の回生」
・・・その点に関しては、私にはいささかの異議はない。 しかし、私はスタンダールはこんな墓銘を作らなかった方がよかったのではないかと思う。引用するのは後世の勝手だが、しかし、スタンダールを語るのに非常に便利な言葉、手掛りになるような言葉として引・・・ 織田作之助 「中毒」
出典:青空文庫