・・・タイプライタアなどは幾らかになるだろう」「ええ、それから画などもあるし」「次手にNさんの肖像画も売るか? しかしあれは……」 僕はバラックの壁にかけた、額縁のない一枚のコンテ画を見ると、迂濶に常談も言われないのを感じた。轢死した・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・然るに文学上の労力がイツマデも過去に於ける同様の事情でイクラ骨を折っても米塩を齎らす事が無かったなら、『我は米塩の為め書かず』という覚悟が無意味となって、或は一生涯文学に志ざしながら到頭文学の為め尽す事が出来ずに終るかも知れぬ。 過去に・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・たといわれわれがイクラやりそこなってもイクラ不運にあっても、そのときに力を回復して、われわれの事業を捨ててはならぬ、勇気を起してふたたびそれに取りかからなければならぬ、という心を起してくれたことについて、カーライルは非常な遺物を遺してくれた・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・わたくしを生きながら元の道へお帰らせなさる事のお出来にならないのも、同じ道理でございます。幾らあなたでも人間のお詞で、そんな事を出来そうとは思召しますまい。」「わたくしは、あたたの教で禁じてある程、自分の意志のままに進んで参って、跡を振・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・ しかし、不思議なことに、まだ陸に向かって、幾らも舟を返さないうちに、どの船も、なんの故障がないのに、しぜんと海にのみ込まれるように、音もなく沈んでしまいました。 つぎの話は、寒い冬の日のことです。海の上は、あいかわらず、銀のよ・・・ 小川未明 「黒い人と赤いそり」
・・・またロシアの饑饉に対し、オーストリー・ハンガリーの饑饉に対し、若しくは戦後のドイツに対して世界人類の取るべき手段は他に幾らもあったであろう。四 然しそればかりではなく、原始キリスト教の精神、いわゆるキリストの教というものと今日の・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・物の色合摸様まで歴々と見えるのだ、がしかし今時分、こんなところへ女の来る道理がないから、不思議に思ってよく見ようとするが、奇妙に、その紫色の帯の処までは、辛うじて見えるが、それから上は、見ようとして、幾ら身を悶掻いても見る事が出来ない、しか・・・ 小山内薫 「女の膝」
・・・そして最初に訪ねて来た時分の三百の煮え切らない、変に廻り冗く持ちかけて来る話を、幾らか馬鹿にした気持で、塀いっぱいに匐いのぼった朝顔を見い/\聴いていたのであった。所がそのうち、二度三度と来るうちに、三百の口調態度がすっかり変って来ていた。・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・「愈々以て謎のようだ!」と今度は井山がその顔をつるりと撫でた。「死の秘密を知りたいという願ではない、死ちょう事実に驚きたいという願です!」「イクラでも君勝手に驚けば可いじゃアないか、何でもないことだ!」と綿貫は嘲るように言った。・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ンハウエルのように形而上学的なもの、エレン・ケイのような人格主義的なもの、フロイドのように生理・心理学的なもの、スタンダールのように情緒的直観的のもの、コロンタイのように階級的社会主義的のもの、その他幾らでもあって枚挙にいとまない。これらの・・・ 倉田百三 「学生と生活」
出典:青空文庫