・・・またそれとともに、職能というものは真摯にラディカルに従事して行けば、必ず人生哲学的な根本問題に接触してくるものである。医者は生と、精神の課題に、弁護士は倫理と社会制度の問題に、軍人は民族と国際協同の問題に接触せずにはおられない。その最も適切・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・そこで、病気だと云って内地米ばかりを配給して貰う者が出てくる──一度や二度はその病気の看板もきくがそうたび/\は通らない。そこで医者の診断書を取ってくる。これなどまだ小心で正直な方だが口先のうまい奴は、これまでの取りつけの米屋に従来儲けさし・・・ 黒島伝治 「外米と農民」
・・・ 文士筆を揮ふは、猶武人の剣を揮ふが如く、猶、農夫の※内に耕すもの、農夫の家国に対する義務ならば、文士紙を展べて軍民を慰藉するもの、亦必ず文士の家国に対する義務ならざるべからず。たとへ一概に然かく云ふこと能はざるまでも、戦時に於ける文士・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・響き渡ったもので、二十里三十里をわざわざその滝へかかりに行くものもあり、また滝へ直接にかかれぬものは、寺の傍の民家に頼んでその水を汲んで湯を立ててもらって浴する者もあるが、不思議に長病が治ったり、特に医者に分らぬ正体の不明な病気などは治ると・・・ 幸田露伴 「観画談」
・・・一日置きに診察して貰えるので、時にはまるで「お抱え医者」を侍らしているゼイタクな気持を俺だちに起させることがある。然し勿論その「お抱え医者」なるものが、どんな医者であるかということになれば、それは全く別なことである。 夜、八時就寝、たっ・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・蜂谷という評判の好い田舎医者がそこを経営していた。おげんが娘や甥を連れてそこへ来たのは自分の養生のためとは言え、普通の患者が病室に泊まったようにも自分を思っていなかったというのは、一つはおげんの亡くなった旦那がまだ達者でさかりの頃に少年の蜂・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ 古本を猟ることはこの節彼が見つけた慰藉の一つであった。これ程費用が少くて快楽の多いものはなかろう、とは持論である。その日も例のように錦町から小川町の通りへ出た。そこここと尋ねあぐんで、やがてぶらぶら裏神保町まで歩いて行くと、軒を並べた・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・三人はそのおかげで、国中で一ばんえらいお医者さまになり王さまから位と土地とをもらって、一生らくらくとくらしました。そしてたくさんの人の病気をなおしました。 鈴木三重吉 「湖水の女」
・・・ この子どもの左足はたいへん弱くって、うっかりすると曲がってしまいそうだから、ひどく使わぬようにしなければならぬと、お医者の言った事があるのでした。 わかいおかあさんはこの大事な重荷のために息を切って、森の中は暑いものだから、汗の玉・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・お医者のランクに恋をしていたのだ。それを発見した。弟妹たちを呼び集めて、そのところを指摘し、大声叱咤、説明に努力したが、徒労であった。弟妹たちは、どうだか、と首をかしげて、にやにや笑っているだけで、一向に興奮の色を示さぬ。いったいに、弟妹た・・・ 太宰治 「愛と美について」
出典:青空文庫