・・・一太は、興にのって、あっちへ行っては下駄で枯葉をかき集めて来、こっちへ来てはかきよせ、一所に集めて落葉塚を拵えた。一太の家の方と違い、この辺は静かで一太が鳴らす落葉の音が木の幹の間をどこまでも聞えて行った。一太は少し気味悪い。一太は竹の三股・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・とお話が終ると一所に私の口からすべり出した。「家はどこですか」「あの一番池の北の堤の下の松林のわきにあるそりゃあみじめな家なんだよ」とおっしゃる。見えないとは知りつつ一番池のけんとうを見る。清の家はかげも形も見えなく只向う山が紫の霞にとざさ・・・ 宮本百合子 「同じ娘でも」
・・・ 彼那恐ろしげな顔をした形をした者共が好い事をしたからと云って一所へ集ったって何で奇麗な事が有ろう。 一体何故人は死ななけりゃあならないのか。自分も彼あ云う風にきたなくなって仕舞わなけりゃあならないのか。 死ぬなんて何と云ういや・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・も春のめぐみにかがやいて 黄金のよになるかしの木の この木のような勢と 望をもって御いでなさい夏に青葉と変っても 夏がだんだんふけていて秋のめぐみがこの枝に 宿ると一所にかしの木は 又黄金色にかがやい・・・ 宮本百合子 「つぼみ」
・・・「いや、余は暫くお前と一緒に眠れば良い」 ナポレオンはルイザの肩に手をかけた。ルイザはナポレオンの腕から戦慄を噛み殺した力強い痙攣を感じながら、二つの鐶のひきち切れた緞帳の方へ近寄った。そこには常に良人の脱さなかった胴巻が蹴られたよ・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
・・・明治三十九年の三月に中学を卒業して、初めて東京に出てくる時にも一緒の汽車であった。中央大学の予備科に一、二か月席を置いたのも一緒であった。それが九月からは四高と一高とに分かれて三年を送り、久しぶりにまた逢うようになったときに、最初に話して聞・・・ 和辻哲郎 「初めて西田幾多郎の名を聞いたころ」
出典:青空文庫