・・・と題した短編の冒頭にある一節であって、自分がかかる落葉林の趣きを解するに至ったのはこの微妙な叙景の筆の力が多い。これはロシアの景でしかも林は樺の木で、武蔵野の林は楢の木、植物帯からいうとはなはだ異なっているが落葉林の趣は同じことである。自分・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・ 二 倫理学の入門 倫理学の祖といわれるソクラテス以来最近のシェーラーやハルトマンらの現象学派の倫理学にいたるまで、人間の内面生活ならびに社会生活の一切の道徳的に重要な諸問題が、それを一貫する原理の探究を目ざしてとり・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ プロレタリア文学運動は、ゼイタクな菓子を食う少数階級でなく、一切のパンにも事欠いて飢え、かつ、闘争している労働者農民大衆の中にシッカリとした基礎を置き、しかも国境にも、海にも山にも妨げられず、国際的に結びつき、発展して行く。――そのハ・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・其の頃でも英学や数学の方の私塾はやや営業的で、規則書が有り、月謝束修の制度も整然と立って居たのですが、漢学の方などはまだ古風なもので、塾規が無いのではありませんが至って漠然たるものでして、月謝やなんぞ一切の事は規則的法律的営業的で無く、道徳・・・ 幸田露伴 「学生時代」
・・・まして地球に生息する一切の有機体をや。細は細菌より、大は大象にいたるまでの運命である。これは、天文・地質・生物の諸科学が、われらにおしえるところである。われら人間が、ひとりこの拘束をまぬがれることができようか。 いな、人間の死は、科学の・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・初生の人類より滴々血液を伝え来れる地球上譜※の一節である。近時諸種の訳書に比較して見よ。如何に其漢文に老けたる歟が分るではない乎。而して其著「理学鈎玄」は先生が哲学上の用語に就て非常の苦心を費したもので「革命前仏蘭西二世紀事」は其記事文の尤・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・今度の養生は仮令半年も前からおげんが思い立っていたこととは言え、一切から離れ得るような機会を彼女に与えた――長い年月の間暮して見た屋根の下からも、十年も旦那の留守居をして孤りの閨を守り通したことのある奥座敷からも、養子夫婦をはじめ奉公人まで・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・高瀬は泉が持っている種々なミレエの評伝を借りて読み、時にはその一節を泉に訳して聞かせた。「君は山田君が訳したトルストイの『コサックス』を読んだことがあるか。コウカサスの方へ入って行く露西亜の青年が写してあるネ。結局、百姓は百姓、自分等は・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・ 次に舜典に徴するに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて舜の事蹟に附加せられ、且人道中最大なる孝道は、舜の特性として傳へらるゝ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・ あとは、かず枝の叔父に事情を打ち明けて一切をたのんだ。無口な叔父は、「残念だなあ。」 といかにも、残念そうにしていた。 叔父がかず枝を連れてかえって、叔父の家に引きとり、「かず枝のやつ、宿の娘みたいに、夜寝るときは、亭・・・ 太宰治 「姥捨」
出典:青空文庫