・・・ 彼女は畏怖と失望に混乱した心持で、その断れ目もなく続いている牆壁を観察し始めたのである。 そして、これは、お前達を不仕合わせな目に合わせないため、よく育ててやりたいために親切に作られたものであるという説明を、或るときは優しい愛撫と・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・ 先生の、レザーブした魂が、黙って様々の深い思いを背負っていることを思うと、私は殆ど畏怖を覚える。先生を愛する弟子の一人とし、わたくしは、心から、先生の生活が、性格に対して自然に、いためつけられず進んで行くことを、祈ってやまない。どうぞ・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・オセロが、却ってそれで妻の貞潔を疑いはしないだろうか、と―― 舞台の上に見れば美しくあり悲劇でもあるこの女奴隷の恋めいたオセロへの畏怖から、イヤゴーの心理的トリックは着々と成功してゆく。そして遂に、かがやくばかりに美しかった白と黒との調・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・そこにもう絶対的な或るもの――禰宜様宮田にとってはこの上ない畏怖となって感じられた、両者の位置の懸隔――を認めることに、馴されきっているのである。 何を云われても、彼はただハイ、ハイとお辞儀ばかりをした。 一通り云うだけのことを云う・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 尊敬され、或は畏怖される文学上の同輩であったろうか。 私共はここにおいて実に興味ある一つの現実に遭遇する。それは、バルザックが一八三〇年代からフランス文学に咲き乱れていた絢爛たるロマンチシズム文学の只中にあって、全く一人の例外者、ユー・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
How kind, how fair she was, how good,I cannot tell you. If I could,You too would love her.Procter : "T・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
出典:青空文庫