・・・ 米国から講演の依頼を受けた時にも健康の点でかなり躊躇していたが、人々もすすめたので思い切って出かけたのであった。最近に出版された John R. Freeman : Earthquake Damege and Earthquake I・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・そんなことを考えていた時にちょうど改造社の『日本文学講座』に何か書けという依頼を受けたので、もし上掲の表題でも宜しければ何か書いてみようということになった。云わば背水陣的な気持で引受けた次第である。そんな訳であるから、この一篇は畢竟思い付く・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・ 小野の上京以来、東京の空が急にせまくなった気がしている。――このうすよごれた町からほとんど出たことのない三吉は、東京を知らないけれど、それまでの東京からはまだ大学生の田門武雄や、卒業して間がない三輪寿蔵や、赤松克馬や新人会本部の連中が・・・ 徳永直 「白い道」
・・・曰ク藍染町、曰ク清水町、曰ク八重垣町等ハ僉廓内ニシテ再興以来ノ新巷ナリ。爾シテ花街ハ其ノ三分ノ一ニ居ル。昔日ハ即根津権現ノ社内ニシテ而モ久古ノ柳巷ナリ。卒ニ天保ノ改革ニ当ツテ永ク廃斥セラル。然レドモ猶有縁ノ地タルヲモツテ、吉原回禄ノ災ニ罹ル・・・ 永井荷風 「上野」
・・・千七百八年チェイン・ロウが出来てより以来幾多の主人を迎え幾多の主人を送ったかは知らぬがとにかく今日まで昔のままで残っている。カーライルの歿後は有志家の発起で彼の生前使用したる器物調度図書典籍を蒐めてこれを各室に按排し好事のものにはいつでも縦・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・元来がそう云う情ない依頼をあえてするくらいですから曲折どころではない、真直に行き当ってピタリと終いになるべき演説であります。なかなかもって抑揚頓挫波瀾曲折の妙を極めるだけの材料などは薬にしたくも持合せておりません。とそう言ったところで何もた・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・るという字に註釈が入る、この字は吾ら両人の間にはいまだ普通の意味に用られていない、わがいわゆる乗るは彼らのいわゆる乗るにあらざるなり、鞍に尻をおろさざるなり、ペダルに足をかけざるなり、ただ力学の原理に依頼して毫も人工を弄せざるの意なり、人を・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・十九世紀以来、世界は、帝国主義の時代たると共に、階級闘争の時代でもあった。共産主義と云うのは、全体主義的ではあるが、その原理は、何処までも十八世紀の個人的自覚による抽象的世界理念の思想に基くものである。思想としては、十八世紀的思想の十九世紀・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・いかなる人の自負心をもつてしても、十九世紀以来の地上で、ニイチェと競争することは絶望である。 ニイチェの著書は、しかしその難解のことに於て、全く我々読者を悩ませる。特に「ツァラトストラ」の如きは、片手に註解本をもつて読まない限り、僕等の・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・、幸に其主人が之を弥縫して大破裂に及ばざることあるも、主人早世などの大不幸に遭うときは、子女の不取締、財産の不始末、一朝にして大家の滅亡を告ぐるの例あるに反し、賢婦人が能く内を治めて愚鈍なる主人も之に依頼し、所謂内助の力を以て戸外の体面を全・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫