・・・先生ほどのおかたでも、あなたの全部のいんちきを見破る事が出来ないとは、不思議であります。世の中は、みんな、そんなものなのでしょうか。先生は、あなたの此の頃のお仕事を、さぞ苦しいだろうと言って、しきりに労っておいでになりましたが、私は、あなた・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・本当に、このずるさ、いんちきには厭になる。毎日毎日、失敗に失敗を重ねて、あか恥ばかりかいていたら、少しは重厚になるかも知れない。けれども、そのような失敗にさえ、なんとか理窟をこじつけて、上手につくろい、ちゃんとしたような理論を編み出し、苦肉・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・私がこのごろ再び深く思案してみたところに依っても、私の作品鑑定眼とでもいうべきものは断じて、断じてという言葉を三度使ったわけであるが、断じていんちきではない。私は、何一つ取柄のない男であるが、文学だけは、好きである。三度の飯よりも、というの・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・だけど、いいかい、真実というものは、心で思っているだけでは、どんなに深く思っていたって、どんなに固い覚悟を持っていたって、ただ、それだけでは、虚偽だ。いんちきだ。胸を割ってみせたいくらい、まっとうな愛情持っていたって、ただ、それだけで、だま・・・ 太宰治 「火の鳥」
出典:青空文庫