・・・撥ね釣瓶はポンプになった。浮塵子がわくと白熱燈が使われた。石油を撒き、石油ランプをともし、子供が脛まで、くさった水苔くさい田の中へ脚をずりこまして、葉裏の卵を探す代りに。 苅った稲も扱きばしで扱き、ふるいにかけ、唐臼ですり、唐箕にかけ、・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・日本文学史に、私たちの選手を出し得たということは、うれしい。雲霞のごときわれわれに、表現を与えて呉れた作家の出現をよろこぶ者でございます。私たち、十万の青年、実社会に出て、果して生きとおせるか否か、厳粛の実験が、貴下の一身に於いて、黙々と行・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・枝を剪んでやった。浮塵子に似た緑色の小さい虫が、どの薔薇にも、うようよついていたのを、一匹残さず除去してやった。枯れるな、枯れるな、根を、おろせ。胸をわくわくさせて念じた。薔薇は、どうやら枯れずに育った。 私は、朝、昼、晩、みれんがまし・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
出典:青空文庫