・・・ 私は、うんざりした。あの大陸が佐渡なのだ。大きすぎる。北海道とそんなに違わんじゃないかと思った。台湾とは、どうかしら等と真面目に考えた。あの大陸の影が佐渡だとすると、私の今迄の苦心の観察は全然まちがいだったというわけになる。高等学校の・・・ 太宰治 「佐渡」
・・・読者も、うんざりするだろう。あとまたいろいろ悲惨な思いをしたのであるが、もう書かない。とにかく、そんな思いをして故郷にたどりついてみると、故郷はまた艦載機の爆撃で大騒動の最中であった。 けれども、もう死んだって、故郷で死ぬのだから仕合せ・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・みじめなプロテストではあるが、これをさえ私は未だに信じてもらえない立場にいるらしいのを、彼の言葉に依って知らされ、うんざりした。 しかし、その不愉快は、あながちこの男に依って、はじめて嘗めさせられたものではなく、東京の文壇の批評家という・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・雨が降りつづいて壁が乾かず、また人手も不足で完成までには、もう十日くらいかかる見こみ、というのであった。うんざりした。ポチから逃れるためだけでも、早く、引越してしまいたかったのだ。私は、へんな焦躁感で、仕事も手につかず、雑誌を読んだり、酒を・・・ 太宰治 「畜犬談」
・・・先夜の酔眼には、も少しましなひとに見えたのだが、いま、しらふでまともに見て、さすがにうんざりしたのである。 私はただやたらにコップ酒をあおり、そうして、おもに、おでんやのおかみや女中を相手におしゃべりした。前田さんは、ほとんど何も口をき・・・ 太宰治 「父」
・・・ 兄も呆れて、うんざりして来たらしく、「それは、何も書かない事です。なんにも書くな。以上、終り。」と言って座を立ってしまった。 けれどもこの時の兄の叱咤は、非常に役に立った。眼界が、ひらけた。何百年、何千年経っても不滅の名を歴史・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・銭湯を出て、橋を渡り、家へ帰って黙々とめしを食い、それから自分の部屋に引き上げて、机の上の百枚ちかくの原稿をぱらぱらとめくって見て、あまりのばかばかしさに呆れ、うんざりして、破る気力も無く、それ以後の毎日の鼻紙に致しました。それ以来、私はき・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・さっき牧君の紹介があったように夏目君の講演はその文章のごとく時とすると門口から玄関へ行くまでにうんざりする事があるそうで誠に御気の毒の話だが、なるほどやってみるとその通り、これでようやく玄関まで着きましたから思いきって本当の定義に移りましょ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・野宿も二晩ぐらいはいいが、三晩となっちゃうんざりするな。けれども、まあ、仕方もないさ。ビスケットのあるうちは、歩いて野宿して、面白い夢例の楢ノ木大学士が衣嚢に両手を突っ込んで少しせ中を高くしてつくづく考え込みながらもう夕・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ ピッタリと頭の地ついた少ない髪を小さくまるめた青い顔の女が、体ばっかり着ぶくれて黄色な日差しの中でマジマジと物を見つめて居る様子を考えて見ると我ながらうんざりする。 毎朝の抜毛と、海と同じ様な碧色の黒みがかった様な色をした白眼の中・・・ 宮本百合子 「秋毛」
出典:青空文庫