・・・という言葉であった。ケーテはその父の忠言に対して何と答えたのであったろうか。それは伝えられていない。けれども、その時ケーテの心には日頃「才能というものは一つの義務である」という叡智のこもったいいあらわし方で、くりかえし語っていたお祖父さんユ・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・つの狭い利己的な封鎖的な安泰の希願からどんなに広い、社会や、世界の生活への理解と、その中で自分の存在について、つつましいながら、確信をもって生きられるように次の世代を愛しはぐくみ、勇気づけ、より多くの叡智をつたえて行ったか、そのことでこそ世・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・この二人の作家の間にある違いは多くの要因を持っていますが、一つは明らかに純正な人間の叡智の敗北の悲劇を自覚したものと、バルザックのようにそれは自覚しなかった作家との違いだと思います。文学の精神の相異がここに何とはっきり出ているでしょう。カロ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・然し、究極に於て各人の叡智と愛との根源に還る問題ではありますまいか。 人類の最も本質的な、最も純粋であるべき結婚、離婚の問題を、最初に而して最後に決する事は心です。心の如何による丈です。〔一九二一年二月〕・・・ 宮本百合子 「心ひとつ」
・・・ ジイドも、彼の細君の発熱についてはそういう本質の差を知っており、又当然知ろうとするであろうのに、芸術家の死命を制する人間的叡智の根源において、歴史の相貌の質的相異の知覚を失っているばかりか、それを自ら恐怖しもしないというのは、何という・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・“The Four Horseman of Apocalypse.”を書いて俄に注目の焦点と成った西班牙のブラスコ・イバンツを始め、松村みね子氏によって翻訳された「人馬の花嫁」の作者、ロード・ダンサニー其他、H. G. Wells, Joh・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・これこそ人間の叡智の芽であるから、決しておろそかに扱ってはならないということです。幼児について云われているこのことは、どうして人間の生涯のあらゆる時期により、深い成長発展のモメントとしてとりあげられて悪いでしょう。「何故?」という二語、「ど・・・ 宮本百合子 「最初の問い」
・・・ ひどい風 十二時まで眠る夜八時すぎ板倉見まい モンパルナスの角でコーヒーをのみマデレーヌからタクシー 十月三日雨 Mと衝突した 四日雨 金 フランス語Madam H Ragondely 18 Rue A・・・ 宮本百合子 「「道標」創作メモ」
Auguste Rodin は為事場へ出て来た。 広い間一ぱいに朝日が差し込んでいる。この Hオテル Biron というのは、もと或る富豪の作った、贅沢な建物であるが、ついこの間まで聖心派の尼寺になっていた。Faubo・・・ 森鴎外 「花子」
・・・もしも人々に健康な叡智があるなら、感覚派と呼ばれる人々は更に生活の感覚化と文学的感覚表徴とを一致させては危険である。いやそれより若しも生活の感覚化がより真実なる新時代への一致として赦され強要せられなければならないものとしたならば、少くとも文・・・ 横光利一 「新感覚論」
出典:青空文庫