・・・自分が絵解きをした絵本、自分が手をとって習わせた難波津の歌、それから、自分が尾をつけた紙鳶――そう云う物も、まざまざと、自分の記憶に残っている。…… そうかと云って、「主」をそのままにして置けば、独り「家」が亡びるだけではない。「主」自・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ここでは手近な絵本西遊記で埒をあける。が、ただ先哲、孫呉空は、ごまむしと変じて、夫人の腹中に飛び込んで、痛快にその臓腑を抉るのである。末法の凡俳は、咽喉までも行かない、唇に触れたら酸漿の核ともならず、溶けちまおう。 ついでに、おかしな話・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ 疱瘡の色彩療法は医学上の根拠があるそうであるが、いつ頃からの風俗か知らぬが蒲団から何から何までが赤いずくめで、枕許には赤い木兎、赤い達磨を初め赤い翫具を列べ、疱瘡ッ子の読物として紅摺の絵本までが出板された。軽焼の袋もこれに因んで木兎や・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
「お母さん、ここはどこ?」 お母さんは、弟の赤ちゃんに、お乳を飲ませて、新聞をごらんになっていましたが、義ちゃんが、そういったので、こちらをお向きになって、絵本をのぞきながら、「さあ、どこでしょう。きれいな町ですね。義ちゃんも大・・・ 小川未明 「僕は兄さんだ」
・・・とか、「この絵本貸してあげるから、ほかの子に見せないでお読みよ」とか、「お前さんの昨日着て来た着物はよく似合った、明日もあれを着て来てくれ」とか、「文公は昨日お前さんをいじめたそうだが、あいつは今日おれがやっつけてやるから安心しな」などとい・・・ 織田作之助 「妖婦」
・・・近所のお婆さんが来て、勝子の絵本を見ながら講釈しているのに、象のことを鼻巻き象、猿のことを山の若い衆とかやえんとか呼んでいた。苗字のないという子がいるので聞いてみると木樵の子だからと言って村の人は当然な顔をしている。小学校には生徒から名前の・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・ その他、 農家。絵本。秋ト兵隊。秋ノ蚕。火事。ケムリ。オ寺。 ごたごた一ぱい書かれてある。 太宰治 「ア、秋」
・・・のであるが、子供心にも、うすみっともなく、妙に疳にさわって、おい、お慶、日は短いのだぞ、などと大人びた、いま思っても脊筋の寒くなるような非道の言葉を投げつけて、それで足りずに一度はお慶をよびつけ、私の絵本の観兵式の何百人となくうようよしてい・・・ 太宰治 「黄金風景」
・・・姪、甥、いとこたち、たくさんいるのであるが、みんなぜいたくなお土産に馴れているのだから、私が、こっそり絵本一冊差し出しても、ただ単に、私を気の毒に思うだけのことであろうし、また、その母たちが或る種の義理から、この品物は受け取れませぬ、と私に・・・ 太宰治 「花燭」
・・・老母妻子の笑顔を思えば、買い出しのお芋六貫も重くは無く、畑仕事、水汲み、薪割り、絵本の朗読、子供の馬、積木の相手、アンヨは上手、つつましきながらも家庭は常に春の如く、かなり広い庭は、ことごとく打ちたがやされて畑になってはいるが、この主人、た・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
出典:青空文庫