・・・たとえば道成寺縁起という一つのテーマがあり、それの内容となるべきひとくさりのグロテスクでエロチックでまた宗教的なストーリーがある。絵巻物の画家は、そのストーリーから一つのシナリオを作らなければならない。まずいかにしてヒーローとヒロインを「紹・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・その上に主役となる老優の渋くてこなれた演技で急所急所を引きしめて行くから、おそらくあらゆる階級の人が見て相当楽しめる映画であろうと思われる。しかしユダヤ人というものの概念のはなはだ希薄な日本人には、おそらくこの映画の本来のねらいどころは感ぜ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・ これらの邦劇映画を見て気のつくことは、第一に芝居の定型にとらわれ過ぎていることである、書き割りを背にして檜舞台を踏んでフートライトを前にして行なって始めて調和すべき演技を不了簡にもそのままに白日のもと大地の上に持ち出すからである。それ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・マー一服やって縁起を直しては。巻煙草をやろか。」「ヤーありがとございます――。昨日は私の小さい網で六羽取りましたがのうし。」今に手並を見せると云う風で。 野菊が独り乱れている。「精ドーダ面白いか。」「あつい」と云いつつ藁帽をぬいで筒袖で・・・ 寺田寅彦 「鴫つき」
・・・この挿話の主人公夫婦として現われる二人の俳優の演技が老巧なためにこれが相当な効果をあげているようである。 銀座を追われた靴磨き両人に腹を減らさせて浜町公園のベンチへ導く。そこに見物には分かっているが靴磨き二人には所有者不明の写真機がある・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ 相撲の歴史については相当いろいろな文献があると見えて新聞雑誌でそれに関する記事をしばしば見かけるようであるが、しかしそれはたいていいつもお定まりの虫食い本を通して見た縁起沿革ばかりでどこまでがほんとうでどこからがうそかわからないものの・・・ 寺田寅彦 「相撲」
・・・その重々しさは四条派の絵などには到底見られないところで、却って無名の古い画家の縁起絵巻物などに瞥見するところである。これを何と形容したら適当であるか、例えばここに饒舌な空談者と訥弁な思索者とを並べた時に後者から受ける印象が多少これに類してい・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・パチリと一つスウィッチを入れさえすれば、日比谷公会堂の演奏、歌舞伎座の演技が聞かれるからである。昔の山の手の住民が浅草の芝居を見に行くために前夜から徹夜で支度して夜のうちに出かけて行った話と比較してみるとあまりにも大きな時代の推移である。し・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・彼は日本の文字がそうであり、短歌俳諧がそうであり、浮世絵がそうであると言い、また彼の生まれて初めて見たカブキで左団次や松蔦のする芝居を見て、その演技のモンタージュ的なのに驚いたという話である。これは近ごろ来朝したエシオピアの大使が、ライオン・・・ 寺田寅彦 「ラジオ・モンタージュ」
・・・わたくしは病床で『真書太閤記』を通読し、つづいて『水滸伝』、『西遊記』、『演義三国志』のような浩澣な冊子をよんだことを記憶している。病中でも少年の時よんだものは生涯忘れずにいるものらしい。中年以後、わたくしは、機会があったら昔に読んだものを・・・ 永井荷風 「十六、七のころ」
出典:青空文庫