・・・鷹には公儀より御拝領の富士司の大逸物を始め、大鷹二基、はやぶさ二基をたずさえさせ給う。富士司の御鷹匠は相本喜左衛門と云うものなりしが、其日は上様御自身に富士司を合さんとし給うに、雨上りの畦道のことなれば、思わず御足もとの狂いしとたん、御鷹は・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・郷里高知の大高坂城の空を鳴いて通るあのほととぎすに相違ない。それからまた、やはり夜明けごろに窓外の池の汀で板片を叩くような音がする。間もなく同じ音がずっと遠くから聞こえる。水鶏ではないかと思う。再び眠りに落ちてうとうとしながら、古い昔に死ん・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・けり真しらけのよね一升や鮓のめしおろしおく笈になゐふる夏野かな夕顔や黄に咲いたるもあるべかり夜を寒み小冠者臥したり北枕高燈籠消えなんとするあまたゝび渡り鳥雲のはたての錦かな大高に君しろしめせ今年米 蕪村の・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫