・・・ 母親の抱擁、頬ずり、キッス、頭髪の愛撫、まれには軽ろい打擲さえも、母性愛を現実化する表現として、いつまでも保存さるべきものである。おしっこの世話、おしめの始末、夜泣きの世話、すべて直接に子どもの肉体的、生理的な方面に関係のあるケヤーは・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・そして一人の子どもの哺乳や、添寝や、夜泣きや、おしっこの始末や、おしめの洗濯でさえも実に睡眠不足と過労とになりがちなものであるのに、一日外で労働して疲労して帰って、翌日はまた託児所にあずけて外出するというようなことで、果して母らしい愛育がで・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・「おや、この子はまたおしっこ。おしっこをたれるたんびに、この子はわなわなふるえる。」誰かがそう呟いたのを覚えている。私は、こそばゆくなり胸がふくれた。それはきっと帝王のよろこびを感じたのだ。「僕はたしかだ。誰も知らない。」軽蔑ではなかった。・・・ 太宰治 「玩具」
・・・ さっきから、おしっこが出たくて、足踏みしているのよ。」「ちょっと待って下さい、ちょっと。一日、三千円でどうです。」 思想戦にわかに変じて金の話になった。「ごちそうが、つくの?」「いや、そこを、たすけて下さい。僕もこの頃どう・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・頭の悪く、感受性の鈍く、ただ、おれが、おれが、で明け暮れして、そうして一番になりたいだけで、どだい、目的のためには手段を問わないのは、彼ら腕力家の特徴ではあるが、カンシャクみたいなものを起して、おしっこの出たいのを我慢し、中腰になって、彼は・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・ふっと眼をさましまして、おしっこ、と私は申しましたのでございます。婆様の御返事がございませんでしたので、寝ぼけながらあたりを見廻しましたけれど、婆様はいらっしゃらなかったのでございます。心細く感じながらも、ひとりでそっと床から脱け出しまして・・・ 太宰治 「葉」
・・・その貴族の一件でね、あいつ大失敗をやらかしてね、誰かが、あいつをだまして、ほんものの貴婦人は、おしっこをする時、しゃがまないものだと教えたのですね、すると、あの馬鹿が、こっそり御不浄でためしてみて、いやもう、四方八方に飛散し、御不浄は海、し・・・ 太宰治 「眉山」
・・・ たとえば文士渡辺篤君の家庭の夜の風景を表現するとして、そうしてねずみが騒いだり赤ん坊が泣いたり子供が強硬におしっこを要求したりして肝心の仕事ができぬという事件の推移を表現するにしても、何もあれほどまでに概念的、説明的、型録的に一から十・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・いよいよ自分の番が近づくと、「何だか寒いねえ、私、一寸おしっこに行って来る」暫くすると私も何だか落付かなくなって「本当に寒いんだね、今夜は」と出かける。しまいには、二人連立って「なんだろう、私たち! 本当に寒いのかしら」「怪しいね」等とハア・・・ 宮本百合子 「打あけ話」
・・・二つ三つの時分、そうやってだかれていて、小さい孫はおしっこがしたくてべそをかき出した。その顔つきでびっくりしたお祖父さんは、耳が遠いものだから孫が泣くにつれて赤く塗ったブリキの太鼓を叩き立てる。孫はいやが上にも泣きしきって、とうとうお祖父さ・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
出典:青空文庫