・・・しかし今見れば散りつもる落葉の朽ち腐された汚水の溜りに過ぎない。 碑の立てられた文化九年には南畝は既に六十四歳になっていた。江戸から遠くここに来って親しく井の水を掬んだか否か。文献の徴すべきものがあれば好事家の幸である。 わたくしは・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ わたくしの言わむと欲する所は、隅田川の水流は既に溝涜の汚水に等しきものとなったが、それにもかかわらず旧時代の芸術あるがために今もなお一部の人には時として幾分の興趣を催させる事である。わが旧時代の芸文はいずれか支那の模倣に非らざるはない・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 屋根にトタン板を並べた鋳鉄工作所から黒い汚水と馬糞が一緒くたに流れ出して歩道の凹みにたまっている。 内部は何があるのか解らぬ古コンクリート塀がある。 からからした夏の太陽ばかりがこれらゆがんで小さい人間のいろんな試みの上に高く・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫