・・・ そこへ立って私は、全く変な気がして、胸の躍るのをやめることができませんでした。それはあのセンダードの市の大きな西洋造りの並んだ通りに、電気が一つもなくて、並木のやなぎには、黄いろの大きなランプがつるされ、みちにはまっ赤な火がならび、そ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ヨーロッパの風俗で、夜会などで一つ踊るにも女は男の選択に対して受け身の積極性を発揮しなければならないようなところでは、先の警句も、それなり通じた面もあろう。いわば近代的な後宮の女性めいた関係なのであるから。私たちの周囲で、女同士の友情を信じ・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ 食堂の出まどに腰をかけて、楓の茂みの中から響いて来る音に注意すると、Haydn のものらしい軽い踊る様な調子がよく分る。 弾手は男かしら女かしら。 女の人にしては少し疎雑な手ぶりがあるが、いつの間にとりよせたか、来たかしたんだ・・・ 宮本百合子 「一日」
・・・ 人類の文化の進展は、未来に私共の心も躍るような光明を予想させる。従って、自分は自分等人類の未来と共に、この僅かな一節である自分並に、他の多くの女性、女性の芸術家たらんと努力する人々の未来に就てここでは一言も触れようと思わない。 只・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・しかしながら、人間精神の本質とその活動についての根本の理解に、昔ながらの理性と感情の分離対立をおいたままで科学という声をきえば、やっぱりそれは暖く躍る感情のままでは触れてゆけない冷厳な世界のように感じられるであろう。そして、その情感にあるお・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・いるようなごろた石を鋪道にしたような裏通りまで、カフェーの前あたりはもとより往来のあっちからこっち側へと一列ながら花電球も吊るされ、青い葉を飾った音楽師の台が一つの通りに一つはつくられて、街という街は踊る男女の群集で溢れる。 外国人のた・・・ 宮本百合子 「十四日祭の夜」
・・・なるほど、南洋土人が、この樹の下で踊るには、白く塗ったところへぞッとする模様を描いた巨大な仮面でもかぶらなければ追つくまいと思う。 また大淀まで、今度は軽便鉄道で戻るのだが、道々、私共は本当に見渡す限り快闊な日向の風好を愛した。高千穂峯・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・ 私が若し仏蘭西へ行ったと致しましたなら、拉丁民族の優雅な、理智と感情との調和に必ず心の躍る歓びを感じますでしょう。然し、私は矢張り其裡の不純を感じて、「けれども」と云う何物かを発見せずには居られませんでしょう。 何処にでも、人間の・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・一人の人間の裡にある可能を十分にのばそうとする千葉先生の偏見のない若々しい誠意が、私のうちのまともなものを急速に、よろこび躍るように育てて行ったのだと思われる。 それには千葉先生が担任でなくて、一定の距離と自由のある位置にいられたことも・・・ 宮本百合子 「時代と人々」
・・・愉快そうで、整然としていて、胸も躍る光景だ。「五ヵ年計画ヲ四ヵ年デ!」「ブルジョア反ソヴェト陰謀ヲブッ潰セ!」 次から次へ赤いプラカードが来る。あいまには、張物だ。ブルジョア、地主、坊主が、社会主義社会建設のために働くプロレタリ・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
出典:青空文庫