・・・……もっとも持重りがしたり、邪魔になるようなら、ちょっと、ここいらの薄の穂へ引掛けて置いても差支えはないんだがね。」「それはね、誰も居ない、人通りの少い処だし、お寺ですもの。そこに置いといたって、人がどうもしはしませんけれど。……持ちま・・・ 泉鏡花 「縷紅新草」
・・・大沼なんぞは馬鹿だけれども剛直な奴で、重りがあった。」 こう言いながら、火鉢を少し持ち上げて、畳を火鉢の尻で二、三度とんとんと衝いた。大沼の重りの象徴にする積りと見える。「今度の奴は生利に小細工をしやがる。今に見ろ、大臣に言って遣る・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・包みの重りが幾キログランムかありそうな心持がする。ああ。恋しきロシアよ。あそこには潜水夫はいない。町にも掃除人はいない。秘密警察署はあっても、外の用をしている。極右党も外国の侯爵に紙包みを返してやろうなんぞとは思わない。いわんやおれは侯爵で・・・ 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・つまりピアノ線の両端に錘をつけたようなものをやたらと空中へ打ち上げれば襲撃飛行機隊は多少の迷惑を感じそうな気がする。少なくも爆弾よりも安価でしかもかえって有効かもしれない。 戦争のないうちはわれわれは文明人であるが戦争が始まると、たちま・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・つまりピアノ線の両端に重錘をつけたようなものを矢鱈と空中に打ち上げれば襲撃飛行機隊は多少の迷惑を感じそうな気がする。少なくも爆弾よりも安価でしかも却って有効かもしれない。 戦争のないうちは吾々は文明人であるが、戦争が始まるとたちまちにし・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・投網の錘をたたきつぶした鉛球を糸くずでたんねんに巻き固めたものを心とし鞣皮――それがなければネルやモンパ――のひょうたん形の片を二枚縫い合わせて手製のボールを造ることが流行した。横文字のトレードマークのついた本物のボールなどは学校のほかには・・・ 寺田寅彦 「野球時代」
・・・ 上框の板の間に上ると、中仕切りの障子に、赤い布片を紐のように細く切り、その先へ重りの鈴をつけた納簾のようなものが一面にさげてある。女はスリッパアを揃え直して、わたくしを迎え、納簾の紐を分けて二階へ案内する。わたくしは梯子段を上りかけた・・・ 永井荷風 「寺じまの記」
・・・の水煙夏川をこす嬉しさよ手に草履鮎くれてよらで過ぎ行く夜半の門夕風や水青鷺の脛を打つ点滴に打たれてこもる蝸牛蚊の声す忍冬の花散るたびに青梅に眉あつめたる美人かな牡丹散て打ち重りぬ二三片唐草に牡丹めでたき蒲団か・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ そうしてみると、昨日あの大きな石を用もないのに動かそうとしたのもその浮標の重りに使う心組からだったのです。おまけにあの瀬の処では、早くにも溺れた人もあり、下流の救助区域でさえ、今年になってから二人も救ったというのです。いくら昨日までよ・・・ 宮沢賢治 「イギリス海岸」
・・・ 葉の重り重りの作って居る薫わしい影。 口に云えない程の柔かさと弱い輝を持った気味悪い程丸味のある一体の輪廓は、煙った様に、雨空と、周囲の黒ずんだ線から区切られて居る。 私はじいっと見て居る。 絶え間なくスルスル……スルスル・・・ 宮本百合子 「雨が降って居る」
出典:青空文庫