・・・その瞬間の気温だけでは決定しない。その温度が上がりつつあるか下がりつつあるか、いかなる速度で上がりまた下がりつつあるか、その速度が恒同であるか、変化しているとすればどう変化しているか、そういう変化の時間的割合いかんによって感覚は多種多様にな・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・もちろんこれは湯沸しの装置がうまく出来ているから、そういう温度の調節が誰にでも容易に出来るのであって、われわれの家の原始的な風呂桶などとは訳がちがうことは確かである。しかしそういう装置を使っているだけに、摂氏一度だけの高低が人間の感覚にいか・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・そうして夏の暑い日にその屋上へあがれば地上百尺、温度の一度や二度ぐらいは低い。上には青空か白雲、時には飛行機が通る。駿河の富士や房総の山も見える日があろう。ついでに屋上さらに三四百尺の鉄塔を建てて頂上に展望台を作るといいと思う。その側面を広・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・それに蓄音機のとる音頭の伴奏の中には、どうも西洋楽器らしいものの音色が交じっているらしい。これも盆踊りの進化の一つの相である。そうして日本現代の一つの象徴でもある。 蓄音機がぱたりとやむと、踊り子たちの手持ちぶさたを紛らすためにだれかが・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・遠方の雷に伴う電光が空に映るのだが、雷鳴の音は距離が遠いのと空気の温度分布の工合で聞えぬのである。稲妻のぴかりとする時間は一秒の百万分一という短時間で、これに照らして見れば砲丸でも止まって見える。あまり時間が短いから左程強く目には感ぜぬが、・・・ 寺田寅彦 「歳時記新註」
・・・ 涼しいというのは温度の低いということとは意味が違う。暑いという前提があって、それに特殊な条件が加わって始めて涼しさが成立するのである。 先年塩原の山中を歩いていた時に、偶然にこの涼しさの成立条件を発見した。とその時に思ったことがあ・・・ 寺田寅彦 「さまよえるユダヤ人の手記より」
・・・力学における力、質量等のごとき、熱力学における温度エントロピーのごときこれなり。これらの概念と定義とが方則の云い表わしと切り離し難きはこのためなり。物理的自然現象を限定すべき条件等がすべてこれらの有限なる独立変数にて代表され得るや否やは別問・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・の怪奇な姿をこわごわ観察している偏屈な老学究の滑稽なる風貌が、さくら音頭の銀座から遠望した本職のジャーナリストの目にいかに映じるかは賢明なる読者の想像に任せるほかはないのである。 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・この水滴が出来るためには、必ず何かその凝縮する時に取りつく核のようなものが必要であって、これがなければ温度が下がっても凝縮は起らない。従ってこの際出来る水滴の数を顕微鏡で数えれば、そのような凝縮核の数が分る勘定である。この器械で研究してみる・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・ 凶作の原因となる気温異常には他にも色々な原因はあるとしても一つの因子としてこれと東北沿海の海水の温度異常との間に若干の相関があるらしいということは、我邦の学者の間ではもう少なくも二十年も前から問題となっていたことである。ただこの問題の・・・ 寺田寅彦 「新春偶語」
出典:青空文庫