・・・イギリスの、又フランスの、新しい生活力の開花して行く様子の反映。ソヴェトの文化の研究。これらすべては私たちの成長のために欠くことの出来ない栄養である。〔一九四六年五月〕 宮本百合子 「新世界の富」
三四年前、いろいろなところで青年論がされたことがあった。そのときは、現実の社会生活と文化との間にヒューメンなものの可能を積極的に見出してその成長や開花を求めてゆこうとしていた日本の精神のあらわれの一つとして、多くの可能をひ・・・ 宮本百合子 「生活者としての成長」
・・・ 婦人の問題が、明治の開化期にまでさかのぼって再検討されることは、決して無意味ではない。同時に、きょうの社会現象のあれこれが、未亡人の官製全国組織に、かつて軍時貯蓄勧誘に尽力した某女史が再登場しているということまでふくめて、細密に観察さ・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ こういう応急的な思想性の需要と供給との現象が、現在の文化面を忙しく右往左往しているのであるが、日本ではおそらく明治開化の時代にも、日露戦争後の社会問題擡頭期にも、第一次欧州大戦後の社会科学への関心の高まった時代にも、今日見られると同じ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・長崎とは、まあ何と古風な開化の町! フレンチ・ドアを背にして置かれた長椅子は、鄙びた紅天鵝絨張り、よく涙香訳何々奇談などと云った小説の插画にある通りの円い飾玉のついた椅子。更紗模様の紙をはった壁に、二つ並んで錆た金椽の飾装品が懸って居る。其・・・ 宮本百合子 「長崎の一瞥」
・・・持ち前の進取の気風で、君主がローマ綴で日記をつけ、ギヤマン細工を造り、和蘭式大熔鉱炉を築き、日本最初のメリヤス工場を試設したが、その動機には、外国の開化を輸入して我日本を啓蒙しようとする、明かな受用の意志が在る。長崎の人々が南蛮、明の文化に・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 明治開化期の影響をうけて、宗教だの霊降術だのに対しては批評をもって暮して来た母は、弟の死後、一種剽悍な惑溺で息子の霊の力が母である自分を守っているということを信じるようになった。この霊との交渉においては、夫も他の息子や娘もいっさい除外・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ 開化期の明治文学の内容は翻訳小説に尽きていると言えるであろうが、ここでも我々の遭遇するのはシェクスピア、スコット、ユーゴーやデュマであり、巨大なバルザックの姿は見当らない。 僅か三年ばかり前、新潮社が大規模に刊行した世界文学講座の・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・て過ぎたが、真に当時の社会的欲求と全面的に結びつき、それを反映しつつ民衆の生活感情にまで浸透して指導的な役割を果したブルジョア文学の時代と云えば、日本では恐らく明治初年から国会開設まで二十数年間の所謂開化期の文学活動だけであったのではなかろ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・福沢諭吉が活躍した明治の開化期の、人の上に人のあることなし、人の下に人のあることなしの理想は、武士階級と町人資本との結合した太政官政府のひどい藩閥政治から、ひきつづく官僚の横暴、男尊女卑の現実などで一つ一つと破産させられた。万機公論に決すべ・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
出典:青空文庫