・・・安倍君が蝙蝠は懐疑な鳥だと云うから、なぜと反問したら、でも薄暗がりにはたはた飛んでいるからと謎のような答をした。余は蝙蝠の翼が好だと云った。先生はあれは悪魔の翼だと云った。なるほど画にある悪魔はいつでも蝙蝠の羽根を背負っている。 その時・・・ 夏目漱石 「ケーベル先生」
・・・たものと見えて、再びもとの夫婦に立ち帰って、病妻の看護に身を委ねたというのがモーパサンの小説の筋ですが、男の疑も好い加減な程度で留めておけばこれほどの大事には至らなかったかも知れないが、そうすれば彼の懐疑は一生徹底的に解ける日は来なかったで・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・それはかつてデカルトが『省察録』において用いた如く、懐疑による自覚である、meditari である。それは徹底的な否定的分析でなければならない。彼は『省察録』の第二答弁において証明 dmontrer の仕方に二通りあるという。一つは分析 a・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・ 私は、まア、懐疑派だ。第一論理という事が馬鹿々々しい。思想之法則は人間の頭に上る思想を整理するだけで、其が人間の真生活とどれだけの関係があるか。心理学上、人間は思想だけじゃない。精神活動力の現われ方には情もあれば知もあり意もある。それ・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・特務曹長「軍法会議だ。それから銃殺にきまっている。」間、兵卒一同再び倒る。曹長(面「上官。私は決心いたしました。この饑餓陣営の中に於きましては最早私共の運命は定まってあります。戦争の為にでなく飢餓の為に全滅するばかりであります。かの・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・なんだ、ええと、新任ねずみ会議員テ氏。エヘン、エヘン。エン。エッヘン。ヴェイヴェイ。なんだちくしょう。テなどがねずみ会議員だなんて。えい、おもしろくない。おれでもすればいいんだ。えい。おもしろくもない、散歩に出よう。」 そこでクねずみは・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・ 平右衛門は今年の春村会議員になりました。それですから今夜はそのお祝いで親類はみな呼ばれました。 もうみんな大よろこび、ワッハハ、アッハハ、よう、おらおととい町さ行ったら魚屋の店で章魚といかとが立ちあがって喧嘩した、ワッハハ、アッハ・・・ 宮沢賢治 「とっこべとら子」
・・・こいつが我輩、名誉ある県会議員を侮辱した。だから我輩はこいつへ決闘を申し込んだのだ。」「いや、貴さまがおれの悪口を言ったのだ。おれはきさまに決闘を申し込むのだ、全体きさまはさっきから見ていると、さもきさま一人の野原のように威張り返ってい・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ビルマでは一九四六年に全ビルマ婦人会議が組織されました。ここには四万人の婦人たちが参加しています。印度では一九四六年に、民族解放のゲリラ隊によってテレンガン地方の五百万人の人口をふくむ二千五百の村々が解放され、はじめて民主的な人民の生活とは・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・の問題は、文学作品の形をとっていたから、文学者たちの注目を集め、批判をうけましたが、ひきつづきいくつかの形で二・二六実記が出て来たし、丹羽文雄の最後の御前会議のルポルタージュ、その他いわゆる「秘史」が続々登場しはじめました。なにしろあの当時・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
出典:青空文庫