・・・彼は、スバーが自分の不具を悲しんで泣くとは知らず此ほかの解釈を、その涙に対して下そうともしませんでした。 終に暦が調べられ、結婚の儀式は吉日を選んで行われました。 娘の唖な事を隠して他人の手に引渡して、スバーの両親は故郷に帰って仕舞・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・というのが、何かお役所の特別な意味でも有る言葉で、それが口癖になっていたのではなかろうか、とも思われたが、しかし、その無筆の親の解釈にしたがって、象さんの夢を見ていたのだとするほうが、何十倍もあわれが深い。 私は興奮し、あらぬ事を口走っ・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・それで重力の秘密は自明的に解釈されると同時に古い力学の暗礁であった水星運動の不思議は無理なしに説明され、光と重力の関係に対する驚くべき予言は的中した。もう一つの予言はどうなるか分らないが、ともかくも今まで片側だけしか見る事の出来なかった世界・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・彼は何故に賤業婦を愛するかという理由を自ら解釈して、道徳的及び芸術的の二条に分った。道徳的にはかつて『見果てぬ夢』という短篇小説中にも書いた通り、特種の時代とその制度の下に発生した花柳界全体は、最初から明白に虚偽を標榜しているだけに、その中・・・ 永井荷風 「妾宅」
・・・三人が三様の解釈をしたが、三様共すこぶる解しにくい。「珊瑚の枝は海の底、薬を飲んで毒を吐く軽薄の児」と言いかけて吾に帰りたる髯が「それそれ。合奏より夢の続きが肝心じゃ。――画から抜けだした女の顔は……」とばかりで口ごもる。「描けども・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・なぜといつて私の所有にかかはるところの油画は、それが他人の描いたものであるにかかはらず、私自身の好みによつて、勝手に自由にその額縁を選定し、よつて以て私自身の解釈による芸術を眺めることができるからだ。 思へ一つの同じ音楽、同じ叙情詩、同・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・例えば世の中に普通なる彼の百人一首の如き、夢中に読んで夢中に聞けばこそ年少女子の為めに無害なれども、若しも一々これを解釈して詳に今日の通俗文に翻訳したらば、婬猥不潔、聞くに堪えざること俗間の都々一に等しきものある可し。唯都々一は三味線に撥を・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ 第二にその神学の解釈に至っては私の最疑義を有する所であります。殊にも摂理の解釈に至っては到底博士は信者とは云われませぬ。摂理なる観念は敢てキリスト教に限らずこれ一般宗教通有のものでありますがその解釈を誤ること我が神学博士のごときもの孰・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そして、当時のプロレタリヤ文学運動の解釈に加えられた歪曲が正される必要がある。 十二年をへだて、今日著者がたまに書く文学評論は、主題と表現の問題にしろよりリアルにとらえられていて、人民的な民主主義社会とその文学の達成のために、堅ろうな階・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・ そのときかねて介錯を頼まれていた関小平次が来た。姑はよめを呼んだ。よめが黙って手をついて機嫌を伺っていると、姑が言った。「長十郎はちょっと一休みすると言うたが、いかい時が立つような。ちょうど関殿も来られた。もう起こしてやってはどう・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫